岩尾光代『姫君たちの明治維新』(文藝春秋)インタビュー  歴史の影に生きた女たちの物語|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年9月14日 / 新聞掲載日:2018年9月14日(第3256号)

岩尾光代『姫君たちの明治維新』(文藝春秋)インタビュー 
歴史の影に生きた女たちの物語

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ジャーナリストの岩尾光代氏が『姫君たちの明治維新』(文藝春秋)を上梓する(九月二〇日刊行予定)。本書には約三〇人の姫君が、明治維新を一つの転換点としていかに生きたかが描かれている。長年、幕末から昭和にかけての莫大な写真を見、皇族・華族の歴史写真を調査してきた著者ならではの、生きた歴史がここにある。それぞれの人生が、他の物語と相まって、連作短編のようでもある。読後、少し角度を違えて維新史を、現代日本を、眺めることができるかもしれない。刊行を機に、岩尾氏にお話を伺った。(編集部)
第1回
§正史に残らない声を拾う§

岩尾 光代氏
――『姫君たちの明治維新』というタイトルが端的に内容を伝えていますが、本書で対象を「姫君」としたのはなぜですか。
岩尾 
 本にするにあたって大名家と皇族に絞ったのは、市井の女たちとは異なり、「姫君たち」――つまり皇族や大名家の夫人ももともと「姫君」ですが、彼女たちは維新の動きに関わる立場にありながら、あまりに語られることが少ないことに気づいたからです。基底にした『サンデー毎日』の連載では市井の女たちも取り上げましたが、維新政治に連動する視点でまとめたのです。

私は毎日新聞社で、七〇年代に写真誌「一億人の昭和史」シリーズを担当していました。「一億人の昭和史」は、膨大な写真を収録することで、時代を再現しようとした雑誌です。当時はまだ歴史写真という概念がなく、古い写真に着目していませんでした。制作にあたっては毎日新聞が所蔵していた写真を中心に扱いましたが、さらに全国各地の図書館や大学、一般家庭からも公募して写真を集めました。しかし、それでは埋まらなかった大きな空白、それが大名家、皇族が所蔵する写真群でした。

黒船でペリー米提督が来航したとき、写真師を連れていました。それが日本人と写真の最初の出合いです。薩摩藩の島津斉彬が、自前で写真の研究を進めたことは有名ですが、他にも、幕末に写真技術を研究している藩はあったのです。失われる前に歴史写真として整理しておいた方がいい、と考えました。

その思いが実を結ぶのは昭和の終わり頃です。旧皇族華族の親睦団体である霞会館の後援を得て、「日本の肖像」シリーズをまとめました。四〇家ほどのお蔵を調査して気づいたのは、大名家でも女の人の記録は正史にはほとんど残っていないということでした。系図に名前もなく、「女」とだけのケースもありました。それからずっと、「姫たち」の歴史を描くことに関心を持っていたのです。身分にかかわりなく、歴史の影に埋もれて表われてこない声を拾うことも、ジャーナリズムの役割の一つだと。

――岩尾さんには、本紙で「読写!一枚の写真から」という連載をしていただいていますが、本書も元を辿れば、写真から始まっているわけですね。
岩尾 
 そうなんです。

「一億人の昭和史」は隔月刊で、一冊に八〇〇から一〇〇〇枚程の写真が入ります。掲載する一〇倍もの写真を一週間たっぷりかけて選びました。写真には臨場感がありますから、そんなふうに古い写真を見つづけていると、時代の空気が伝わってくるんです。というよりも、その時代に入り込んでしまう。戦時中の写真ばかり見ていたときには、戦場にタイムスリップしましたし、銀座の街中で、どうしてあの人はモンペを履いてないんだろう、と思ったりしました(笑)。

視覚の力は、強い。私は写真を見ると、時代の空気やその人となりがイメージとなって湧き上がり、脳の中に映像として刻まれてしまうようになりました。

「姫たち」も、印象的な肖像写真は頭の中にインプットされていて、彼女たちが「外に出して、出して」といっている気がするんです(笑)。

――岩尾さんは、明治維新にはどのような印象を持たれていますか。
岩尾 
 維新とは近代化への明るい第一歩というのが、ずっと抱いてきた印象です。その反面、歴史写真を見つづけてきた私の脳裏には、戊辰戦争という内戦を引き起こした、暗い事実も横たわっています。世界に向けて開国をする、新しい世界が始まるその裏で、日本人同士が戦い血を流し合う。何と空しいことか、と。その犠牲になった人に、いま少し目を向けてもいいのではないかと思います。

明治二年、岩倉具視が版籍奉還と同日に、従来の身分制度を変更し華族が誕生します。第二次大戦終結後の昭和二二年までつづきます。華族制度が失われれば、公人から私人になるわけですから、本書でも取り上げる範囲は、そこまでということにしました。
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この記事の中でご紹介した本
姫君たちの明治維新/文藝春秋
姫君たちの明治維新
著 者:岩尾 光代
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「姫君たちの明治維新」出版社のホームページはこちら
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