青空と逃げる 書評|辻村 深月(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年9月15日 / 新聞掲載日:2018年9月14日(第3256号)

辻村 深月著 『青空と逃げる』 
名古屋学院大学 栗木 悠多

青空と逃げる
著 者:辻村 深月
出版社:中央公論新社
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あなたは突然、たった1本の電話で平和な日常が奪われたらどうするだろうか。それも家族の絆も一緒に。

本書ではある出来事をきっかけに普通の家族がどん底にまで追い込まれてしまう。その家族は母の早苗、父の拳、そして息子の力の3人暮らしで父は劇団の仕事をしており、そんな父を力は尊敬し、稽古場にも足を運んでいた。幸せに暮らしていた中で、突然母に1本の電話がかかってきて、父が乗っていた車が交通事故に遭ったことを知る。隣には運転者である遥山真輝という女優も一緒に乗っており、2人とも命に別状はなかったが、父の拳は理由も分からずに早苗と力から行方をくらませ、遥山の方は女優の仕事が出来ないかもしれないぐらいに大怪我をしてしまい、そのショックから自殺をしてしまった。事務所や遥山のファンからは死んだのは拳のせいなのではないか、そして挙句の果てには不倫とまで疑われてしまい、事務所は夫の行方を探そうと早苗と力に必要以上に付きまとい、力は友達から嫌がらせをされてしまう。そんな生活に耐えられなくなった2人は今の環境から逃げることを決意するのだが、事務所からの追跡や父の拳がなぜ2人から逃げたのか、。様々な疑問が湧き起こる中で、真実の先にはいったいどんな家族の物語があるのか。

1度巻き込まれてしまったらどこまでも叩かれる。この本ではまさに、世間の狭さや冷たさ、学校でのイジメ問題など、普通に生きていくことの大変さ、現代社会の生きにくさを表しているかのようであった。しかし、同時に人間の温かさと親子のたくましさを感じることができるエピソードも多くあった。

親子は全国各地へ逃亡を続けるのだが、その逃亡先で出会った人達から2人は多くのことを学び、成長をしていく。そして出会いがあればあるほど耳にすることがある。それは「言葉」である。普段何気なく使っている言葉でもふとしたことで心に響き、自分を変えることができたり、逆に傷つき、落ち込んでしまうこともある。2人も初めはまさにそうであり、言葉で傷つき、世の中に絶望していた。しかし、その言葉が2人を変えるきっかけにもなったのだ。母の早苗は逃亡先の仕事場で先輩社員の言った「背負うものがある者は強い」という言葉で力と共に生きていこうと決意をすることができ、力は友人との別れの際の「連絡ちょうだいね。待ってるから」という言葉で自分にも求めてくれる友人がいることに自信をつけることができた。

このように言葉の1つで人間は変わってしまい、その後の人生にも大きな影響を与えることだってある。それほど言葉には大きな力があるのだ。そう思うと言葉を話すことや聴くことが怖いかも知れないが、自分から行動をして多くの人に出会い、多くの言葉を聴かなければ自分を変えることができず、新しい扉は開かれない。そして家族や友人などを大切にすることがいつか必ず大きな力になり、自分を救うことにもなるのだ。そんなことに気づかせてくれ、自分を変えるためのヒントを与えてくれたこの本には感謝しており、皆さんにも自信を持って薦めたいと思う。
この記事の中でご紹介した本
青空と逃げる/中央公論新社
青空と逃げる
著 者:辻村 深月
出版社:中央公論新社
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