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”Letter to my son"
更新日:2018年9月25日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

Letter to my son(9)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
私はノートにWhitmanの詩を書き出す。“お喋りに夢中な小さな子達が流れ込んでくる/私の熱にうなされた神経と身体の上に、待ち焦がれていた波立つ水のように”

チャイナタウンのカフェ、いつもの窓際の席。店の女の子が注文したコーヒーとチョコチップクッキーを持ってきてくれる。「ありがとう」。「プライドマーチの帰り? わたしも見たかったな」。椅子に立てかけていたレインボーフラッグを見たんだろう。「そう。行進してきたよ。1時間以上歩きっぱなしで足が棒。七色の杖が役立ったよ」。「杖、カラフルすぎだし〜。ゆっくり休んでいってね」。と微笑みながらカウンターへ戻っていく。

マーチはマンハッタンの5番街北方から始まり、ちょうど30年前の1969年、“ストーンウォールの反乱”が起こったゲイバーがあるグリニッジ・ヴィレッジまで、約3キロの道のりを南下する。今年は私の朗読会を開いてくれている書店のスタッフ達と参加した。幾千ものレインボーフラッグやプラカードに彩られた長い行列は、歓喜と怒気、哀悼の足音を街中に響かせる。私は70年代に初めてマーチを見た時のこと、母とともに歩いたこと、長年連れ添った恋人と毎年のように参加したことを思い出していた。母もその恋人ももういないこの世界。私には悲しみすら蒸発し何も残っていない。すっからかんだ。

“Do you believe in life after love?”DJフロートからCherの歌声が流れてきて、みんな笑顔で大合唱している。私も歌いながら旗を青空に思いっきり高く掲げ、大きくゆっくりと振る。眩しい光が旗に降り注ぎ、七色の光が私を包み込む。真っ裸になったような気分だった。

もう一度生きてみたい。あの日以来、そのままにしていた彼の部屋を片付けよう。家中の窓もドアも開け放って今日の風を入れよう。そう強く思った。

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