梯久美子インタビュー(聞き手:武田徹)  あなたにいま、届く言葉  『原民喜 死と愛と孤独の肖像」(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年9月21日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

梯久美子インタビュー(聞き手:武田徹)
あなたにいま、届く言葉
『原民喜 死と愛と孤独の肖像」(岩波書店)刊行を機に

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ノンフィクション作家の梯久美子氏が、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波書店)を刊行した。
原民喜の名は学生時代に聞いたことがあるが、ずっと遠い日の記憶の中に、ある人が多いのではないだろうか。本書を読むと、ほとんど名前のみだった一人の作家が、日本の作家として指折り数える一人になる。もしくは、心さびしい日に、そっと寄りたくなる作家の一人になるかもしれない。

本書の刊行を機に、ジャーナリスト、作家の武田徹氏に聞き手をお願いし、本書の内容についてはもちろんのこと、梯氏のノンフィクション作品との取り組み方や手法についてまで、お話いただいた。 (編集部)
第1回
遺書という出発点

武田 徹氏
武田 
 今日は梯さんのノンフィクション作品が、どのように書かれているのか、じっくりおききしたいと思っています。原民喜については、『愛のテン末』(文藝春秋)の十二篇のうちの一篇として、すでに一度取り組まれていますが、そのとき「原民喜の遺書に惹かれたことが出発点になった」と発言されていました。「遺書」とは、どのように出合ったのでしょうか。
梯 
 『愛のテン末』は二〇一五年の刊行ですが、その前年の秋に遺書の現物を見に広島に行っています。遡ると、二〇一一年に東京新聞で「百年の手紙」という連載をしていて(その後岩波書店から刊行)、その中で、原民喜と晩年に交流のあった祖田祐子さん宛の遺書を取り上げているんです。最初にその遺書の存在を知ったのは、『日本人の手紙』(リブリオ出版)という十巻のアンソロジーだったと思います。「悲歌」という詩が添えられた遺書の美しさに胸を打たれました。

その後原さんの全集に当たって、本書の冒頭に引いた佐々木基一宛の遺書にも出合いました。私はデビュー作の『散るぞ悲しき』(新潮社)も、手紙をきっかけに書いています。それもあって手紙にはずっと興味があり、手紙のアンソロジーや、作家の全集の中でも書簡の巻だけ読んだりしているんです。でも実をいうと原さんの作品はそれまで、「夏の花」しか読んでいませんでした。
夏の花・心願の国(原 民喜)新潮社
夏の花・心願の国
原 民喜
新潮社
  • オンライン書店で買う
武田 
 「夏の花」は、いつ読まれましたか。
梯 
 大学生の頃だったと思います。有名な作品だから読んでおこうか、というぐらいの気持ちで、名作だとは思いましたが、当時は特に心惹かれたというわけでもなかった。

原民喜が被爆していること、のちに鉄道自殺したことを知っていましたから、彼の遺書の静けさと透明さが、意外でした。

そこから、原民喜の作品を読み直して、妻の貞恵さんを書いた作品に心を惹かれて、『愛のテン末』では、夫婦のことを調べました。その過程で、義弟の佐々木基一宛の遺書が広島にあることを知って見に行ったんです。
武田 
 広島市立図書館で、原民喜についての講演をしておられますね。遺書を見に行ったのは、その前ですか。
梯 
 はい。取材に行って、翌秋本になり、その後講演をした、という順番です。最初に取材に伺ったときに、手紙以外にも直筆の原稿などを見せてもらっていました。そして講演に訪れたときは、原民喜の生誕一一〇年展が開催されていたので、遠藤周作からの手紙を見ることができました。それから、聴衆の中に祖田祐子さんを知っている方が来ていたと知ります。

その後しばらくは全集を読み込んだり、資料を集めたりしていました。その中で、原民喜がフランスにいた遠藤周作に宛てて書いた遺書が見つかった、という記事をネットでみつけて……といっても、三年ぐらい前の記事だったのですが(笑)。

それで、その遺書の現物を見てみたいということと、祖田さんを探して、ご存命ならお会いしたいと。
武田 
 梯さんの資料分析テクニックはすごいと思っているのですが、入手する都度、整理しながら、執筆準備をしていくのですか。
狂うひと(梯 久美子)新潮社
狂うひと
梯 久美子
新潮社
  • オンライン書店で買う
梯 
 原民喜は自身できちんと整理し、残すべきものだけを残して亡くなった人なので、資料はそれほど多くないんです。『狂うひと』のときは、段ボールで何十箱もありましたから、十年かかって整理して、その後は資料をどう捌くか、何を書いて何を書かないかの判断が大ごとだったのですが。

また、この本を書くにあたっては、文学研究者の竹原陽子さんに、何度か広島でお会いしています。彼女は、岩波文庫の『原民喜全詩集』に付された詳細な年譜の作成者で、これが全集の年譜よりも新しく詳細で、拠り所となりました。本書は彼女の研究があってこそ書けたもので、祖田祐子さんも、彼女に紹介してもらいました。

『狂うひと』では、あえて踏み込んで、島尾ミホさんの作品を論じもしましたが、原民喜はもう十分に知られている作家ですし、生涯についても重要なことはすでに分かっている。「夏の花」については、もととなる被爆メモと合わせて、作品分析に近いこともしましたが、今回、私はあくまでも、原民喜の紹介者のつもりです。こういう作家がいたということを、いま改めて、広く知ってもらう橋渡しとして。特に若い人に、読んでほしいと思っています。
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この記事の中でご紹介した本
原民喜 死と愛と孤独の肖像/岩波書店
原民喜 死と愛と孤独の肖像
著 者:梯 久美子
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
夏の花・心願の国/新潮社
夏の花・心願の国
著 者:原 民喜
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
狂うひと/新潮社
狂うひと
著 者:梯 久美子
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
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