田村元『北二十二条西七丁目』(2012) ぬばたまの常磐線の酔客の支へて来たる日本、はどこだ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2018年9月25日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

ぬばたまの常磐線の酔客の支へて来たる日本、はどこだ
田村元『北二十二条西七丁目』(2012)

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JR常磐線は、千葉・茨城を経由して東京と東北を結ぶ路線。首都圏側では、東京近郊の住宅地から都内への通勤輸送の役割を担う「ザ・通勤電車」である。数限りないサラリーマンたちを乗せて日々稼働し続けている常磐線は、いってみれば「疲れた日本のサラリーマン」の象徴のような路線といえるのだろう。この歌の作者もやはりそんな常磐線サラリーマンの一人であった(なお日比谷線に乗り換えて通勤していたようである)。「ぬばたまの」は本来は「黒」や「夜」にかかる枕詞であるが、「ぬばたまの常磐線」とすることで「ブラック企業」だの「深夜残業」だののイメージをいっきにかぶせてしまっているところがなかなかのウルトラC。

夜には酔っ払ったサラリーマンを大量に詰め込んで、東京から少しばかり北へと向かってゆく常磐線。磐城炭田からの石炭の輸送ルートとして始まり、戦前戦後を通じて国内経済に大きく関与してきたこの路線も、平成に入れば物悲しい響きを持った名前として歌われることになった。「の」の続く平坦なリズムも、単調な電車の揺れのようだ。「日本」の後に訪れる、がくんと崩れるような読点。「酔客の支へて来たる日本」なんてものは今はもうどこにもないのだろう。あるいは昭和の時点においてもそれは単なる幻想だったのかもしれない。しかしそのことをたやすくは認められないまま、グレースーツのサラリーマンたちは今夜も常磐線に揺られて帰るのである。
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