白井晟一の原爆堂 四つの対話 書評|岡崎 乾二郎(晶文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月22日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

伝統と原爆 
アマチュア建築家からの脱却

白井晟一の原爆堂 四つの対話
著 者:岡崎 乾二郎、五十嵐 太郎、鈴木 了二、加藤 典洋、白井 昱磨
出版社:晶文社
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「今日の建築家は皆アマチュアですよという。」これは、栗田勇が中心となってまとめた『現代日本建築家全集9』(三一書房、1970年)の中で紹介されている会話の中の言説だ。そして、続けて「建物を合理的に建てるのは、職業的建築家として当たりまえのことであって、いかに建築を超克するか、洗練された技術をこえて、自己の表現を高め、さらには自己表現をこえて、歴史と人間の普遍的表現へと突き進むべきか」ということがプロの建築家に求められるという。モノづくりとしての仕事を熟すだけの建築家は職業的建築家でしかないという訳だ。実にきびしい言葉である。

この辛辣な言葉を発しているのは白井晟一。白井は、孤高の建築家とも、あるいは、伝統作家とか民衆作家ともいわれるなど、その存在は知られつつも歴史的な位置づけはいまだなされていない建築界の巨匠のひとりだ。

この度、この白井を取り挙げた1冊の本が出版された。息子で、白井と一緒に建築を思惟していた白井昱磨と岡﨑乾二郎・五十嵐太郎・鈴木了二そして加藤典洋の四人の対談集である。実際に建てられた名建築を語る本は多く見られるが、アンビルドで、しかも、半世紀も前に発表されたスケッチと図面だけの作品を取り挙げたものは稀な存在といえ、白井晟一という建築家を紐解くにはふさわしい本とも云えなくもない。

それでも、何故、今頃アンビルドの計画案が取り挙げられたのかは、その名にある「原爆堂」から想像できよう。わが国と原爆は切っても切れない関係がある。原爆が最初に殺人兵器として使われた国であり、また、戦後の平和利用という名目の原子炉の壮絶な自然災害を受けたのもわが国である。いわば、今更ながらだが、わが国は原爆・原子炉の負の代名詞といえる国でもあるのだ。

改めて白井の原爆堂を見ると、発表は1955年だが、そのプロジェクトは1年前から始められたという。すなわち、1954年3月1日、わが国の第五福竜丸がビキニ環礁で米軍が行った水爆実験で被曝し、また、日本全土に放射能の雨も降らせた。戦争末期のわが国の悲惨な核による犠牲があったにもかかわらず、戦後も核実験が続けられていたのだ。

白井は、ある画家が「原爆の図」という絵画を描いたことを知り、それを展示する美術館として当初は計画したが、計画は不調に終わり、その後用途を限定しない建築として英文パンフレットも作成し、作品を広く伝えた。

本書が、この「原爆堂」を通して白井を取り挙げる理由は、やはり、現在の建築家と建築界への警告といえるだろう。ただ、こうした警告は、実は、この「原爆堂」を発表した当時から既に主張されていた。すなわち、「白井晟一論」(吉中・吉島・川添『新建築』1955年10月号所収)では、戦後の近代建築作家の仕事について「すべてが都会的な課題に注がれ、しかもその成果のかなりのものが、都市コマーシャリズムへの全面的奉仕」であると断じ、白井の作品との違いを明快にしていた。こうした戦後の建築を取り巻く環境は現状でも変わらず、より一層強化されているようにも思える。対談者のひとりである岡﨑乾二郎も、そうした建築界に辟易し、対談の冒頭に「ぼくはもう建築の世界が嫌いになっちゃいまして。」と述べている。この一言に、本書の出版の意味のすべてが集約されているように思う。

建築が芸術であろうとするならば、やはりアマチュアからプロになるために機能主義を超えた“建築の創造”が求められよう。おそらく、今日ようやく歴史的建造物の保存再生の意義が認められ作品としても定着しつつあるが、その背景には本来の機能を超えた保存再生建築の放つ魅力が人々を捉えているからに他ならないように思う。モダニズムという手法の限界を越えるためにも戦後建築史の批判的見直しが必要なことを、本書は伝えてくれている。
この記事の中でご紹介した本
白井晟一の原爆堂 四つの対話/晶文社
白井晟一の原爆堂 四つの対話
著 者:岡崎 乾二郎、五十嵐 太郎、鈴木 了二、加藤 典洋、白井 昱磨
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「白井晟一の原爆堂 四つの対話」出版社のホームページはこちら
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