HATE!真実の敵は憎悪である 書評|松田 行正(左右社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月22日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

◇一人ひとりの心に防波堤を◇ 
じつに多種多様なヘイト表現を網羅

HATE!真実の敵は憎悪である
著 者:松田 行正
出版社:左右社
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二〇一五年、日本の漫画家がシリア難民の少女を揶揄するイラストをフェイスブック上に投稿し、国際的な非難を浴びた。「やつらが諸悪の根源だ!」「警戒せよ、追放せよ!」。敵対者を名指して醜く描き、メッセージを添えて煽動する。同種のヘイト表現は、現在世界中に広がっている。

もっとも、そこに目新しさはほとんどない。むしろ過去のパターンの繰り返しだ。本書はそのことを歴史にさかのぼって教えてくれる。アメリカの黒人差別や、アジア人差別のポスター。またドイツの反ユダヤ主義のアジビラ――。じつに多種多様なヘイト表現が網羅されているものの、それらはどこか似通っているのである。

たとえば、野卑な敵の男性が、か弱い女性に襲いかかるという構図。第二次世界大戦期だけを見ても、イタリアでは、ギラギラした目の黒人兵が女性に襲いかかり、アメリカでは、細い目に眼鏡をかけた日本人将校が全裸の白人女性を連れ去り、ドイツでは、太って禿げ上がったユダヤ人が女性を誘惑している。性的暴行を示唆するイメージは、どこの国でもプロパガンダに効果的だったことがわかる。

あるいは、敵を虫けらのように描き、人間性を否定するデザイン。一九四五年、アメリカ海兵隊の月刊誌は、「ニッポン・ヒトジラミ」のイラストを公開した。日本人が有害なシラミであれば、たとえ民間人でさえ、いくら爆撃で「撲滅」しても良心が傷まないというわけだ。その四年前には、ドイツがポーランドで似たような反ユダヤ主義のポスターを配布している。「ユダヤ人はシラミだ。発疹チフスに注意」。このようなヘイト表現は暴力のたがを外す。アメリカやドイツがその後何を行ったのかは、あらためて述べるまでもあるまい。

ここで、差別主義者は単純だと侮ってはならない。同じ表現がなんども繰り返されるのは、われわれがいとも簡単に感情を刺激され、敵を憎悪してしまう証拠だからである。それは、激しい修行で身体を刺激して「神秘体験」を作り出し、信者を効率よく獲得したオウム真理教と似ている。人間は弱い。すぐ人形のように操られてしまう。だからこそ過去のパターンを学び、一人ひとりの心にヘイト表現への防波堤を作らなければならない。

ヘイト表現は、デザインやCMに関わる者にとって必須の知識でもある。二〇一六年、中国の洗剤メーカーが、自社製品の使用で黒人男性が色白の中国人男性に変わるCMを作って物議を醸した。悪気はなかったのかもしれないが、これは一九世紀イギリスの石鹸ブランドの広告の焼き直しだった。歴史を知っておけば、似たような過ちは防げただろう。

最後に、巻末に収められた優生思想のポスターに触れておきたい。ナチス時代のドイツのそれは、健常者の負担を具体的な金額で示して「障がい者は国家の負担になる」と主張している。人間を「生産性」の多寡や有無で二分する発想はあまりに幼稚だが、それがけっして過去のものでないことは、現代日本でLGBTに関して同様の発言を行った政治家が話題になったことでも明らかだ。

ちなみに冒頭であげた日本の漫画家は、この政治家を応援するイラストも描いている。これは果たして偶然だろうか。「醜悪な敵」は、必ず「偉大な英雄」と対置される。「デザインの歴史探偵」を自認する著者がヒトラー時代のデザインを取り上げた前著『RED』も、本書とともにいまこそ参照されなければならない。
この記事の中でご紹介した本
HATE!真実の敵は憎悪である/左右社
HATE!真実の敵は憎悪である
著 者:松田 行正
出版社:左右社
以下のオンライン書店でご購入できます
「HATE!真実の敵は憎悪である」出版社のホームページはこちら
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