歌丸ばなし 書評|桂 歌丸(ポプラ社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年9月22日 / 新聞掲載日:2018年9月21日(第3257号)

桂 歌丸著『歌丸ばなし』 
京都大学 柳澤 彩

歌丸ばなし
著 者:桂 歌丸
出版社:ポプラ社
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歌丸ばなし(桂 歌丸)ポプラ社
歌丸ばなし
桂 歌丸
ポプラ社
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本書は先日亡くなった噺家、桂歌丸最晩年の作品だ。今年6月には続編となる『歌丸ばなし2 芸は人なり、人生は笑いあり』も刊行された。

桂歌丸と聞いてピンとこない方も、「テレビ番組『笑点』の緑色」と聞けばきっとあの着物姿が浮かぶだろう。言葉遊びに風刺のきいたジョーク、他の演者との掛け合い。磨きあげられた芸に、私は物心ついたときから魅せられてきた。時には腹を抱えて、時にはニヤリと、時にはクスリと、時には時間をおいてふと、笑ったものだ。

この本には「噺」が8つ収録されている。「噺」ってなんだ? という落語初心者の方にも是非、いや、むしろ落語初心者の方にこそ是非、この本を手にとって欲しい。本を開くと、そこに桂歌丸の舞台が広がる。落語ってどんな感じで聴けばいいの? 寄席ってなんだか敷居が高くて難しそう。そんな心配は無用だ。頁をめくるたび、優しく落語の世界へと誘われて行くはずである。
「落語を通して、あたくしは人生を磨かれました。」(あとがきより)と語る噺家の人生が、江戸を舞台にした人情噺や滑稽噺と交叉していく。曲がったことが大嫌いな清兵衛さん、買い物上手な徳さん、物知りのご隠居。愉快な登場人物と桂歌丸が重なり合い、離れ、再び重なり合い、気がつけば私自身の人生も織り込まれていくような感覚を覚える。

私は一度だけ実際に桂歌丸の落語を聴いたことがある。声、仕草、とても艶やかな芸だと感じた。無駄を削ぎ落とした様式美と、その中で育まれる温かな笑い。これらには本書を通しても触れることができる。装丁を手がけた長場雄のシンプルな線で描かれたイラストも洒落ていて、桂歌丸の世界にあっている。

舞台芸術たる落語を愛する方の中には、高座の内容を活字にすることに抵抗を覚える方もいるかもしれない。私もその違和感は、わかる。舞台芸術というのは生ものであり、演者と観客の二度と繰り返されることのない一瞬一瞬の出会いに、美が生まれる。落語芸術も舞台芸術であるが故にこのような美を内包している。

対し、本というのは時間や場所の制約を超えることができる便利なものだ。筆者は読者と対峙することなく文字を残すことができ、読者は自身の都合に合わせて好きなとき、好きな場所で筆者の思いを受け取ることができる。この便利さは、寄席において演者と観客が大切にしている感覚とは価値を異にするもののように私は感じる。舞台芸術における美は活字の上では成立し得ないものかもしれない。

本書はある種の実験であると私は解釈した。迫り来る自分の死をどう扱うか? 自らの芸にどう向き合うか? 落語を愛し、古典を重んじ、至高の芸の追求のためには革新を恐れない噺家、桂歌丸の生き様をどのようにみせるか? 時を超えて、遺すか? 噺家の命が尽きるとき、その芸もまた共に消えるべきか? この答えなき問いに対する回答の過程、自らの死をも素材にした実験が本書であると思う。

この実験は成功か? 判断は読者に委ねられている。
「どうぞ一席お付き合いをお願い申し上げます。」
この記事の中でご紹介した本
歌丸ばなし/ポプラ社
歌丸ばなし
著 者:桂 歌丸
出版社:ポプラ社
以下のオンライン書店でご購入できます
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