読書人紙面掲載 特集
――女性文学のみで構成した全集というのはとても興味深い企画ですね。

――すべて女性の手によって作られているのですか。
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更新日:2018年9月24日
長谷川啓✕岩淵宏子対談 (2007年5月18日号より)
女性は何を表現してきたか
[新編]日本女性文学全集」刊行開始を機に
日本の現代文学においてはいまや女性作家の活躍は目覚ましく、また近年のフェミニズム批評やジェンダー批評の進展により、それまでほとんど顧みられてこなかった女性作家による作品の再評価も進んできた。こうした状況の中、近代文学の黎明期から現在にいたるまでの女性文学の流れを包括的に捉えようと試みた「[新編]日本女性文学全集」(全12巻)が菁柿堂より間もなく刊行されることとなった。そこで本紙では監修者である岩淵宏子氏と長谷川啓氏のお二人にこの全集についてお話を伺った。 (編集部)
目 次
第1回
近現代女性文学の全体的な営みと歴史を俯瞰する(1)
2018年9月24日
第2回
近現代女性文学の全体的な営みと歴史を俯瞰する(2)
2018年9月25日
第3回
家制度に苦しんだ女たち 女権を主張した湘煙・紫琴、一葉の近代性
2018年9月26日
第4回
『青鞜』が目指した女性解放 田村俊子の視点を発展させた宮本百合子
2018年9月27日
第5回
戦争直後の表現の二大潮流 新憲法下での女性の解放感と戦争の傷跡
2018年9月28日
第6回
男性文化に接近した現代 女性の想像力もさらに多様化の時代へ
2018年9月29日
第1回
近現代女性文学の全体的な営みと歴史を俯瞰する
――女性文学のみで構成した全集というのはとても興味深い企画ですね。

岩淵 宏子氏
岩淵
明治から今日までの網羅的な女性文学全集は初めての試みです。長谷川
フェミニズム批評やジェンダー批評も今や成熟期に入っていますが、そのような視点から企画・編集し、解説を付すことにしました。岩淵
女性文学は、男性文学を本流と位置づける文学史のなかで、テクストそのものの解読さえ充分におこなわれないまま、本流の枠組みを揺るがすことのない無害な存在として社会と文化の周縁部に追いやられてきました。しかし、一見、男性文学の流れと軌を一にしながらも、女性文学に込められている主張は男性文学とは大きく異なることが多いのですが、男性中心社会の有形無形の抑圧のなかで、さまざまなレトリックなどを用いているので、フェミニズム批評やジェンダー批評が出てきてはじめて、充分に読み解けるようになりました。それまでは女らしい感性であるとか濃やかな情緒であるなどと処理されてきた表現にも、深く立ち入ってみると女性の痛切な主張が込められていることがわかってきたのです。長谷川
今も基本的には男性中心の社会ですけれども、明治以降の近代社会は完璧な男社会で、そうした男性文化の中にあって、女性文学は長い間軽視されてきました。これまでの文学全集でも男性文学が圧倒的に主流を占め、女性文学は「女流」と言われ差別的に傍流に追いやられて、全集の中ではいつも決まり切って樋口一葉とか与謝野晶子、林芙美子やその他少数うの作家しか取り上げられて来ませんでした。ですから、女性だけの文学全集を編むことによって、傍流に追いやられたまま評価の対象にすらならなかった作家にも光を当てたいと考えたのです。ただし、残念ながら、女性作家すべてを収録することは出来ませんでした。近代女性文学が出発してから現代まで一二〇年余になりますが、一九世紀末から二一世紀初頭にかけての社会の中で、女性たちが何を見つめ、考え、表現しようとしてきたのかを一度きちんと見直し、近現代女性文学の全体的な営みと歴史を俯瞰して、いかに女性たちが豊かな世界を紡ぎ出してきたかを世に問いたいと思いました。本全集では、作家の登場時期や作品の発表年次を考慮しながら編集し、女性作家たちの営みを女性自らが検討していくことを重視して、各巻の編集責任者や解説執筆陣をすべて女性としました。全十二巻の解説を通観すれば、自ずと女性文学史にもなっているかと思います。――すべて女性の手によって作られているのですか。
長谷川
今までこうした全集に関わるのは男性が圧倒的で、女性作家についての解説も男性の執筆者が多かったのですが、本全集ではあえて男性を排除するという逆差別をしました(笑)。女性の目で女性の営みを見ていく動きは、一九七〇年代のウーマンリブ、八〇年代のフェミニズム運動から出てきていますが、ある意味でこの全集もその一環として考えています。この記事の中でご紹介した本
「[新編]日本女性文学全集 第5巻」出版社のホームページはこちら
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