若山牧水の2冊 『ザ・ワンダラー 濡草鞋者 牧水』 『牧水の恋』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月2日 / 新聞掲載日:2018年9月28日(第3258号)

若山牧水の2冊 『ザ・ワンダラー 濡草鞋者 牧水』 『牧水の恋』

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牧水の恋(俵 万智)文藝春秋
牧水の恋
俵 万智
文藝春秋
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若山牧水が没したのは昭和3年(1928年)9月17日。没後90年という節目の時だからか、気になる本が2冊出されている。文藝春秋刊『牧水の恋』(俵万智著、296頁、1700円)と、アーツアンドクラフツ刊『ザ・ワンダラー 濡草鞋者(ぬれわらじもの)牧水』(正津勉著、200頁・1800円)である。

若山牧水は宮崎県北部の山に囲まれた坪谷という小さな村に生まれ、旧制延岡中学校を卒業したあと早稲田大学に学んだ。中学時代に恩師の影響を受けて文学に目覚め、父の職業であった医師になることを拒んで一目散に歌の世界に入っていった。熱烈な恋も経て旅と酒を愛した43年の生涯であった。

当代一流と言っていいであろう歌人俵万智は、この著書でも明らかにしているが牧水に深く魅入られて歌の道に入った。そして、自らの失恋が牧水にますます近づけたことを告白している(第4章、牧水と私)。それだけに、牧水と園田小枝子との恋、めぐり合いの偶然から恋焦がれていく牧水の心のうちを、女性としての感性から丹念に解き明かしていく。

小枝子を恋う心が牧水の歌を育てていったともいえるのであろうが、これだけ恋の歌がそろえられ、残されている手紙も紹介されると、恋を表現する手段としての短歌のすばらしさ、そして、ことばの持つ力強さをあらためて感じさせてくれる。いまどきの若者が「告白する」と言って、相手に対してストレートに恋を伝えるのとは格段の違いを見る思いがする。数多い恋の歌から無理をしてひとつ選ぶならば、牧水が三枝子と結ばれた直後に詠んだこの一首ではないだろうか。

山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇(くち)を君
一方、詩人であり山歩きをこよなく愛する正津勉は、牧水の生い立ちが山陰(やまかげ)の小さな集落坪谷というところであったところから説き起こし、旅をし続けた一生はここから始まっていると本書では説いている。

「濡草鞋者」という聞きなれない言葉は、牧水自身が生い立ちを綴る「おもひでの記」の15章で使っているという。少年牧水(若山繁)の貧しい家には鉱山を探す山師や、流浪者、食いはぐれた旅役者など敗残者たちがいつも寝泊りし、「濡草鞋を脱ぐ」といっていたのだそうである。少年はそうした人々を見ながら世間と言うものへの空想を膨らませていた、と書いている。それは歌人としてではない文士としての素養を育てることにもなったのではないだろうか。

あまり有名ではないがこの歌こそ牧水の生涯を旅に誘った歌はではないかと、筆者は思うのである。

ふるさとの尾鈴(おすず)の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り

本稿の筆者は宮崎県立延岡高等学校の出身である。つまり、ずっと時間を隔てた牧水の後輩にあたる。同校では毎年9月17日、牧水の命日に「牧水忌」と称して若山牧水を偲ぶ行事が行われる。メロディーにのせた牧水の歌の合唱を楽しみ、全員が投稿した短歌のうち優秀な作品には校長からの賞品も渡される恒例の行事だ。筆者は今年全校生徒を前にして70分の講演を要請された。もちろん、牧水だけにとどまらずふるさと延岡をテーマとする文学作品などについての話であったが、ここに紹介した2冊を母校に持っていった。そして、締めくくりにこの本を図書館に置いて帰るから、ぜひ手にとって読んでほしいと伝えたのであった。何人の高校生がこの本の中から先輩若山牧水を想うことになるのであろうか。楽しみである。 (K)
この記事の中でご紹介した本
牧水の恋/文藝春秋
牧水の恋
著 者:俵 万智
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
ザ・ワンダラー 濡草鞋者(ぬれわらじもの)牧水/アーツアンドクラフツ
ザ・ワンダラー 濡草鞋者(ぬれわらじもの)牧水
著 者:正津 勉
出版社:アーツアンドクラフツ
以下のオンライン書店でご購入できます
「ザ・ワンダラー 濡草鞋者(ぬれわらじもの)牧水」出版社のホームページはこちら
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