鼎談=出口治明・川合康三・円満字二郎 『古典は過去へのタイムトラベル』 明治書院『新釈漢文大系』完結と『詩人編』のスタートを機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年9月28日 / 新聞掲載日:2018年9月28日(第3258号)

鼎談=出口治明・川合康三・円満字二郎
『古典は過去へのタイムトラベル』
明治書院『新釈漢文大系』完結と『詩人編』のスタートを機に

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 一九六〇年、第一巻『論語』を刊行してから五十八年、明治書院の『新釈漢文大系』(全百二十巻・別巻一)は『白氏文集 十三』をもって今年ついに完結した。そして来年五月からは、『新釈漢文大系 詩人編』(全十二巻)がスタートする。これを機に、中国古典の魅力とそれを読む喜びについて、立命館アジア太平洋大学学長でライフネット生命創業者の出口治明氏、『詩人編』の編者で京都大学名誉教授の川合康三氏、弊紙で漢字についてのコラム「漢字点心」を連載している円満字二郎氏のお三方にお話していただいた。       (編集部)
第1回
百科事典のように引いた『新釈漢文大系』

川合 康三氏
川合 
 私が中国古典文学に興味を持ったのは、中学二年生の時に吉川幸次郎先生の本に偶然出会ったことがきっかけです。その時から吉川先生のもとで学ぼうと思ったんですけれども、私が京大に入った年は吉川先生が退職された年なんですね。それを合格と同時に知って大変ショックを受けて、先生に手紙を書きましたら、それならば来なさいというお返事をいただいたので、家にお伺いして、そこで本の中の先生を初めて生身で見たわけです。吉川先生は「小読杜会」というものを開いておられて、すぐに次の日から君も来なさいということになりました。ですから入学当初から吉川先生に読書会で杜甫を読んでいただいたのはありがたいことでした。『新釈漢文大系』については、私が一番最初に買ったのは『文章軌範』です。それも中学生の時。ただし挫折しました。中学生が一人で読むにはちょっと取っつき難かった。その後『新釈漢文大系』には、むしろ大学生になってからお世話になりました。演習の中でいろいろ本が出てきますよね。それがなかなか読めないわけです。今でこそ中国からも現代語訳が出てますけれど、それまでは一切訳というものがなくて、若い学生の時に漢文を読むのにまず一番頼りになるのはこれなんです。その点でも『新釈漢文大系』は役に立ったので、大変使わせてもらった記憶があります。
出口 
 川合先生が京都大学に入学されたのはいつですか。
川合 
 67年です。
出口 
 僕も67年ですから同期ですね。上野千鶴子さんも67年ですね。
川合 
 同じクラスでした。
出口 
 そうですか。川合先生が同期と聞いてびっくりしました。僕は川合先生のようなことはまったくなくて、漢文の専門家でもなんでもなければ、単に本が好きなおじさんというだけで他は何もないんですが、本の中では相対的に歴史が好きだったんです。それで歴史の本をよく読んでいたのですが、そうすると『史記』が面白いんですよ。中国史って本当に面白い。故事熟語などもたくさんありますしね。それでなんとなく漢文って面白いなと感じていたということぐらいです。吉川先生のことはもちろん僕も存じていました。僕らの大学時代は吉川先生は、ある意味では高橋和巳の先生というだけでもスターでしたからね。高橋和巳の『邪宗門』を読んで、なかなか面白い先生だなと思っていました。専門が中国の古典文学で、岩波書店の「中国詩人選集」では李商隠を書いておられましたね。それを読んで、へえっと思った記憶があります。
川合 
 高橋さんは67年の秋に明治大学から移ってこられたのですが、ご存知の通り京大は私たちが二回生の終わりぐらいからストライキになりまして、三回生の冬ぐらいからやっと再開したんですけれども、高橋さんは学生側に与していて授業はされなかったんです。だから私は高橋先生の授業は一度も受けたことがありません。ただ、バリケードで封鎖された中文研究室に行きますと、学生たちに混じって高橋さんがおられた。そこでちょっと話をしたという程度の接点しかないんです。
出口 
 僕の場合、『新釈漢文大系』については実はサラリーマンになってからで、『貞観政要』が刊行されてからなんです。
川合 
 原田種成先生のものですね。
出口 
 『貞観政要』自体の名前は前から知っていて、唐の太宗と臣下との問答録ですごく面白いということは知っていたんです。ちょうどサラリーマンになって係長になった頃ぐらいですか、読んでみようと思って『貞観政要』を買ったのが『新釈漢文大系』の最初でした。それで上下を読んで、すごく面白いなと思いました。読みやすいんですよね。漢文があって、ちゃんと意味も書いてあって辞書も付いているので、素人でもすらすらと読めた。先ほどまさに川合先生が言われたように、分からないことがある時は『新釈漢文大系』を百科事典のように引くことが出来たので、なんでも教えてくれるものとしてそのたびごとに図書館に行って、『史記』とか『文選』などから必要箇所をつまみ食いしては辞書代わりに使っていました。ただ、それぐらいのことなので、このような座談会に呼んでいただく資格があるんだろうかとも思ったのですが、でも『貞観政要』にはそういう思い出があります。それと六年ぐらい前ですか、東京には若手の経営者を鍛える勉強会が結構あって、僕もそのひとつに講師に呼ばれて一年間に五回ぐらいですが講義をしたんです。生徒が熱心なのでいい加減な話ではあかんなと思ってレジュメを作って経営の話をしたのですが、やっぱり忙しいのでしんどくなって、二年目からはもうお断りします、忙しくて出来ませんと言ったんですね。でも受講生からの人気があったらしくて、そんな事を言わずにどんな方式でもいいですから続けてくださいと言われたので、その時に『貞観政要』をふっと思い出して、じゃあこれの素読でもいいですかと言ったら、それで結構ですと。それでまた30人ぐらい集めて、『貞観政要』を皆さんに買ってもらい、一頁から順番に一小節ずつ、立って大きい声で読んでもらったあとに自分でコメントしてもらって、そしてみんなの意見を聞いて最後に僕が一言コメントする。一番の手抜きですね(笑)。そんな江戸時代の寺子屋のような方式の講義を始めたんです。そうしたらこれがまためちゃ好評で、みんなが凡百のビジネス書より遥かに面白いということで四年間続いたんです。塾生は一回三十人で四年ですから、百人ぐらいは僕のところで『新釈漢文大系』の『貞観政要』を読んだと思います。塾生のみなさんは、今まで真面目にこのような本を手に取ったことはなかったけれど、こうして読んだらすごく面白かったので、自分でも興味のあるものを読んでみますと言うんですよ。手抜きから始まったものなんですがね(笑)。僕は『新釈漢文大系』で最後まで読んだのは『貞観政要』しかなかったので、それを教科書にしただけなんですけれど。そんな思い出があります。
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この記事の中でご紹介した本
新釈漢文大系 1 論語/明治書院
新釈漢文大系 1 論語
著 者:吉田 賢抗
出版社:明治書院
以下のオンライン書店でご購入できます
新釈漢文大系109 白氏文集 十三/明治書院
新釈漢文大系109 白氏文集 十三
著 者:岡村 繁
出版社:明治書院
以下のオンライン書店でご購入できます
「新釈漢文大系109 白氏文集 十三」出版社のホームページはこちら
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