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”Letter to my son"
更新日:2018年10月2日 / 新聞掲載日:2018年9月28日(第3258号)

Letter to my son(10)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI

屋台の掛け声、クラクション、台車の軋み、二胡の響き、擦れる赤いビニール袋。様々な音がごちゃっと混ざり合い、夕飯の支度の慌ただしさのようなものが街中に生き生きと溢れかえるチャイナタウン。

ぼんやりと地図を眺める。朝陽のツィンタワー、右回りにトライベッカ、ソーホー、正午のノリータからリトルイタリー、そして夕刻のチャイナタウン、日没の市庁舎。街々は俯瞰すると文字盤のように配置されていて、時間帯のイメージともぴったりだ。私は最近発見したこのでっかい“街時計”のアイデアを気に入っている。

「Hi」。ひんやりと玲瓏な音が鼓膜に落ちてきた。カウンター越しにサングラスをかけた痩せてる男の子がひとり。そっか、わたしバイト中だった。Mottストリートの端にあるカフェSILK。ママの店。私は午前中はファッションデザイナーTodd Oldhamのスタジオで働いて、午後から夕方まではここ、夜は家で自分のブランドの服を作っている。

窓際に座った男の子はサングラスのまま本を読み始めた。日差しを浴び、ゆっくり羽ばたく蝶々のように、彼の細長い手の中で真っ白に透けたページがひらりひらりとめくられていく。時々メモを取ったり外をぼんやり眺めている。鼻の形が日本人ぽい。服の着方も髪型もなんとなくこの街に馴染んでない。留学生かな。きっとニューヨークに来たばかりなのかも。

ちょっと焦げてしまい、まかないになったバナナマフィンをつまみながら、私はいつもより少し丁寧にコーヒーを淹れる。ふと、近所に住んでいる詩人が、先月、店内の掲示板に残していったルームメイト募集の張り紙のことを思い出す。

いつの間にか彼はサングラスをはずし、椅子にもたれ、外をじっと見つめている。いつもあの席に座る詩人と同じように。まるで時計が逆回りして、私の知らない若い頃の詩人がそこに座っているみたいだった。
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