小中英之『翼鏡』(1981) 螢田てふ駅に降りたち一分の間(かん)にみたざる虹とあひたり |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

現代短歌むしめがね
更新日:2018年10月2日 / 新聞掲載日:2018年9月28日(第3258号)

螢田てふ駅に降りたち一分の間(かん)にみたざる虹とあひたり 
小中英之『翼鏡』(1981)

このエントリーをはてなブックマークに追加
「てふ」とは「といふ(と言う)」の省略形で、発音は「ちょう」。ほとんど短歌でしか使われない符牒のようなものになっているので、あまり深く突っ込まなくてもいいだろう。この歌の主役はあくまで「螢田」。

螢田駅は神奈川県小田原市蓮正寺に所在する、小田急小田原線の駅。「駅名の詠み込まれた短歌」というテーマになると高頻度で引用されるこの歌、「螢田」という地名の美しさへの驚きが発想の原点になっている。江戸時代からホタルの名所であったために付けられた駅名とされているが、実はホタルに関する地元の言い伝えのようなものは特に無く、1952年(昭和27年)の駅開業にあたって小田急が「創作」したといっていいような地名らしい。蓮正寺とお寺の名前がつくよりもイメージが良い方が望ましいと、『新編相模国風土記稿』の記述をやや牽強付会気味に解釈して命名された可能性が高い。そんな大人の事情ぷんぷんの駅名なのだが、歌人はこの駅名の看板にインスピレーションを得てしまったようでこんな一首が残されたのである。

一分にもみたない短い時間で消えた虹。それは歌人の見た幻のようなものだったかもしれないが、ホタルというはかなく美しい虫の名前を冠した印象的な駅名と響き合っている。スピッツの『ホタル』の歌詞の一節を借りるなら、「鮮やかで短い幻」を封じ込めた美しい一首である。でも作者も、この駅名の実情を知ったらちょっとがっかりしていたかもね。
このエントリーをはてなブックマークに追加
山田 航 氏の関連記事
現代短歌むしめがねのその他の記事
現代短歌むしめがねをもっと見る >
文学 > 日本文学 > 短歌関連記事
短歌の関連記事をもっと見る >