真理先生 書評|武者小路 実篤(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年9月29日 / 新聞掲載日:2018年9月28日(第3258号)

武者小路実篤著 『真理先生』 
筑波大学 安藤 由佳

真理先生
著 者:武者小路 実篤
出版社:新潮社
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真理先生(武者小路 実篤)新潮社
真理先生
武者小路 実篤
新潮社
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「真理」という言葉を、皆さんはどう捉えるだろうか。正しいことを語るが、それは綺麗事に過ぎず、偽善的だなどのイメージを持つ人も少なからずいるだろう。確かに科学が発展し、現実主義の風潮を擁する現代社会では、「真理」は歯の浮くような言葉なのかもしれない。しかし本書において、「真理の道」とは「自己も生き、他人も生き、全体も生きること」であるという。自殺、犯罪、戦争、自然破壊が絶えないこの世界においてこの考えは、誰もが持つべきものだ。人と人、そして人と自然の間の共生を実現しなければ、滅ぶのは私たち自身だろう。だからこそ、ぜひ「真理」という言葉を食わず嫌いせずに本書を手に取ってみてほしい。

本書は全編を通して山谷五兵衛という男と彼の周囲の人々との交流を描いている。本書の登場人物は皆、社会には到底受け入れられなさそうな変人ばかりである。しかし彼らは異様な魅力を持って読者を惹き付ける。

一文も金を持たず、脱俗的生活を送りながら真理を一心に求める真理先生。石ばかり描き続け、周囲に馬鹿にされながらも、真理先生との交流の中で人を描くことに挑戦する馬鹿一。彼は飽くなき誠実さをもって画と向き合い、遂には芽を出そうとする。決して自己に甘んじることなく、勉強と反省を繰り返し、自らの作品に尽くす画家の白雲子と書家の泰山兄弟。これらの人々の生き様は読者を大いに魅了する。彼らの共通点はただ一点、誠実な努力家であり、自身の仕事にどこまでも真剣であるという点である。

彼らの生き方は社会には受容され難い。残念ながらこのような真っ直ぐな生き方を、現代社会は非効率だとみなす。しかし、本書では彼らの生き方こそが実は最も健全で魅力的であるように描き出す。そこに私は、現実主義に陥り、努力と誠実さを「効率」の背後に隠して、忘れてしまった現代社会への批判と問いかけがアイロニカルに含まれているように感じる。彼らのような真剣な人生は美しい。
本書を貫く大きなテーマは「人生肯定」である。真理先生は、人間には知性が備わっているだけ他の生物と異なり、自己の生きる意味は何か考えるのだと言う。
しかしその答えは容易には出ず、人々は生きる不安を抱え自己批判へと走る。何故なら否定は肯定よりも容易だからだ。だからといって一度きりの人生を否定し、自己に意味を見出せないのは余りに寂しいことである。私たちは人生を肯定すべきだ。そして人生を肯定したいと思うからこそ、私たちは努力家の人生に魅了され、美しく思うのだ。本書はそのことに気付かせてくれる。

著者の武者小路実篤は人生肯定家として有名だ。彼の作品は私たちの人生を明るく照らし出す。中でも『真理先生』は彼の思想の集大成とも言える作品だ。最近の社会情勢は暗く、人生を否定的に捉えている若者は余りにも多い。本書はそんな社会の精神的支柱になり得る作品だ。ぜひ老若男女を問わず、広く読んでもらいたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
真理先生/新潮社
真理先生
著 者:武者小路 実篤
出版社:新潮社
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