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”Letter to my son"
更新日:2018年10月9日 / 新聞掲載日:2018年10月5日(第3259号)

Letter to my son(11)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
「元気ですか。僕は毎日のんびり過ごしています。2階のテラスで、驚くほど明るい夜の海を眺めながら書いています。月明かりだけが頼りなので、文字がはみ出てたらごめんね。そういえば今日、スーパーでハムを切り分けてくれたおばちゃんが「日本人と話したのは人生で初めて。この村に来てくれて嬉しい」。と、いきなり抱きしめてキスしてくれて。マヨルカ島はアジア人が全然いなくて、どこへ行ってもなんとなく観察されてるような気がしてて。だから、彼女の心からの“ようこそ”がすごく嬉しかったです。(ハムも山盛りにオマケしてくれた!)地底湖でのコンサートやショパン記念館のことも書きたいけどスペースが足りなさそう。裏の写真で想像してください(笑)。早くたくさん話したいです。9月に会えるのを楽しみにしています。p.s. 帰ったら約束のボートも乗りに行きましょう」



カフェSILKのレジ脇の棚。きっと私が生まれる前からそこにある1冊のペーパーバック。ママに聞いても「昔のお客さんの忘れ物」。としか教えてくれない。真ん中ぐらいに栞がわりなのか、葉書が挟まれている。日本語で読めないし、“愛”や“恋”という漢字も見当たらない。でもきっと大切な人への葉書なんだろうなと思わせる何かがあった。だから、ふとした時につい手に取って見てしまう。裏の虹色にライトアップされた鍾乳洞と湖に一隻のボートが浮かんでいる写真の隅には、ボールペンで書かれた走り書きがある。Lorcaって人の何かの一節で、それだけはスペイン語だから、私にも少しだけ意味はわかる。

“どんなに君を思っているか、君は永遠に知ることはない。君は私の中で眠っていて、これからも眠り続けるだろうから”

切手の貼られていないその葉書を再びペーパーバックに挟み、棚の一番上の、いつもの位置にそっと戻した。
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