ローティ論集 「紫の言葉たち」/今問われるアメリカの知性 書評|リチャード・ローティ(勁草書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年10月6日 / 新聞掲載日:2018年10月5日(第3259号)

初学者への最良の道しるべ
ヴィンテージ・ローティ

ローティ論集 「紫の言葉たち」/今問われるアメリカの知性
著 者:リチャード・ローティ
翻訳者:冨田 恭彦
出版社:勁草書房
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ある思想家や書き手の作品のなかでも珠玉の一品を集めたものを、熟成した極上ワインのようにヴィンテージと呼ぶことが欧米ではしばしばある。そうした言い方になぞらえるなら、本書はまさにヴィンテージ・ローティと呼ぶことができる論集である。リチャード・ローティの主要著作はすでに多く邦訳されているとはいえ、かれが折々に著した論文に、丁寧に訳された日本語で触れることのできる本書の刊行は、多くの読者にとって朗報だろう。

日本で独自に編まれたローティの論文集としては、同じ訳者による『連帯と自由の哲学――二元論の幻想を超えて』(岩波書店、1988年)がある。本書のあとがきでも触れられているように、本書はこの以前の論文集に収録された論考以降の1989年から、亡くなる直前の2007年に準備された「知的自伝」を含めた七つの論考が、それぞれひとつの章として収録されている。これらの論考は、『哲学と自然の鏡』(産業図書、1993年)や『偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性』(岩波書店、2000年)といったローティの主著を読み進めるための、著者自身による最良の道しるべである。

各章をなす収録論文の冒頭に導入のための解題が置かれ、また、訳者の手による詳細な訳注が原注とあわせて各章の末尾に付されているのは、本書のひとつの特徴である。訳者が各章ごとに解題をとおして読者を誘う形式は比較的稀であるかもしれないが、ローティ自身のことをよく知る訳者であればこその配慮だろう。訳注の豊富さと厳密さは圧巻と言える。たとえば初学者は「真理の対応説」や「地平融合」のような哲学の概念について、充実した訳注から知識を得ながらローティの論考を読み進めることができる。

本書に収録されている論考からひとつをとくに取り上げるとすれば、ローティが2003年に公刊した「分析哲学と会話哲学」(本書第四章)は、かれの「文化政治」という考えをコンパクトに理解するのに適したものになっている。ローティは分析哲学の専門家と大陸哲学の専門家がお互いのことをそれほどよく知らないにもかかわらず軽蔑しあっている状況に触れたうえで、自らは分析哲学よりも大陸哲学に共鳴することを表明する。そのうえでかれは、「大陸」という形容詞を使うことをやめ、大陸哲学と呼ばれてきたものを「会話哲学」と呼びなおすことを提案する。訳者も解題で触れているとおり、こうした会話哲学こそ、ローティによれば人間の生の不変的な構造を明らかにするという取り組みをやめ、それにかえて「語の用法の変更を提案したり新語を広めたりすることによって、行き詰まりを打開し会話をもっと実り多いものにする」(本書132頁)という文化政治を実践するものである。『哲学と自然の鏡』以来の、ローティの主張の一貫した側面とさらに深化した側面の双方を、たとえば本書から垣間見ることができるだろう。

分析哲学と大陸哲学の対立というトピックは、遅ればせながらというべきか、日本でも近年、政治思想といった隣接領域で盛り上がりをみせている。一例を挙げるとすれば『ニュクス』第4号(堀之内出版、2017年8月刊)の第二特集として組まれた「分析系政治哲学とその対抗者たち」(乙部延剛主幹による特集)では、分析的政治哲学に依拠する論者と大陸的政治哲学に与する論者が寄稿しあい、論者によっては相手陣営を激しく批判する場面もみられた。政治思想のなかのこうした対立の行く末は、いまのところ見定めがたい。また、ローティにならって大陸的政治哲学を会話的政治哲学と呼びかえ得るかも、論者によって意見がわかれるかもしれない。しかしながら、ローティの提案がこうした対立を前にして、ひとつのありうる方向性を指し示しているのは確かだろう。政治思想のこうした例をひとつとってみても、本書の翻訳刊行はきわめて時宜を得たものである。
この記事の中でご紹介した本
ローティ論集 「紫の言葉たち」/今問われるアメリカの知性/勁草書房
ローティ論集 「紫の言葉たち」/今問われるアメリカの知性
著 者:リチャード・ローティ
翻訳者:冨田 恭彦
出版社:勁草書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「ローティ論集 「紫の言葉たち」/今問われるアメリカの知性」出版社のホームページはこちら
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