「共感報道」の時代 涙が変える新しいジャーナリズムの可能性 書評|谷 俊宏(花伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月6日 / 新聞掲載日:2018年10月5日(第3259号)

報道とは「真実にむくいる」こと 
ジャーナリズムの未来の扉を開くカギ「共感報道」

「共感報道」の時代 涙が変える新しいジャーナリズムの可能性
著 者:谷 俊宏
出版社:花伝社
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「共感報道」という題名を見て、心がざわついた。自分もこれまで犯罪事件や災害の現場をたどりながら、幾度も問い続けてきたことがある。胸にこみあげる感情は「共感」なのか、それともただの憐みや同情なのか……事実を的確に伝えるにはむしろ邪魔なものかもしれないと思い、悶々と悩んだ時期もあった。

十数年前、女子学生の娘を殺害された父親を取材したことがある。未解決のまま三回忌を迎える遺族を取材するという仕事を受け、ひとり自宅を訪ねたが、門前払いが続く。手紙を投函して数日後、ようやく玄関先へ現われた父親に、「あなたの手紙は他の記者とは違った」と言われた。それは決して誉め言葉ではなく逆だった。これまで訪れた記者は事件究明を熱く訴え、遺族の心情を伝えたいのだと懇願してきた。だが、この手紙にはまるで熱意を感じなかったと。返事に窮した。

その通りである。まだ駆け出しの頃でいきなりの殺人事件取材だった。幼い娘をもつ身であり、親の苦悩を思えばあまりに酷く、便箋を前に筆が進まなかった。娘を失くした心痛を聞くのが怖かったというのが本音である。やむなく正直に伝えて詫びた私に、父親は事件当初からマスコミに追われていかに傷ついたかと、辛そうに洩らす。それでも「事件を風化させたくない」と娘への思いを数時間に及んで語ってくれた。以来、夫妻との交流も途絶えることなく続いてきた。

また大事故や災害の現場ではその惨状に言葉を失い、取材中に涙がこみあげてくることがある。被災して家族や住む家も失くした人に対する弱い自分が情けなく、現場では懸命にこらえても、宿へ戻った途端、身体が震えて止まらなかったこともある。そうした体験を重ねるほどに、取材相手と向き合う自身の心の在り方に惑う。それに真摯に応えてくれたのが本書であった。

著者は共同通信社の記者として三十年余、大阪社会部はじめ国内外の支局などを歴任し、数々の現場を渡り歩いてきたジャーナリストである。従来、日本の報道機関では、事実を正確かつ公平に伝える「客観報道」を礎としてきた。そこでは報道人が自分の意見や信条、感情を抑え、批判精神を持ちながら報道することを旨とする。さらには報道機関独自の取材で権力犯罪や社会悪・不正を暴く「調査報道」がある。これら二つとは異なる「第三の報道」として着目したのが「共感報道」だ。

なぜ、いま「共感報道」なのか。著者も報道人として、取材相手とどう接しなければいけないかを模索してきた。日航ジャンボ機御巣鷹山事故での遺族への取材、汚職事件の疑惑解明、強制隔離されたハンセン病患者の軌跡を追ったルポルタージュ取材など、さまざまな現場で報道人としての在り方を問われる。人の生死に関わる取材を通して、たえず試されてきた「共感するチカラ」。それを育むヒントを見出したのが、東日本大震災と御岳山噴火災害における報道だったという。

被災地で取材にあたった報道人の多くが感情をあらわにし、号泣した。さらには泣いたことを告白する記者も相次いだという。彼らは被災者や遺族の話に耳を傾け、我が身を相手の立場に置きかえて受けとめ、自分が感じたことや考えたことを伝える。それが「災害死の真相究明」につながるケースもあった。 

著者はそうした記者や遺族の思いを聴き、いかなる心の通い合いがあったのかを探る。そこで成立した「共感報道」こそが、ジャーナリズムの未来の扉を開くカギを握っていると考え、最後にこう述べている。

報道とは「告げ知らせる」ことが本来の意味。さらに著者は「報」を「むくいる」、「道」を「真実への道」と捉え、報道とは「真実にむくいる」ことを指すのだという。この言葉が心に響いた。自身もまた「共感」することを怖れず、相手の心の声に真摯に耳を傾けていく。その先にこそ真実の灯がともっているのだと、背を押されたような気がしている。(
この記事の中でご紹介した本
「共感報道」の時代  涙が変える新しいジャーナリズムの可能性/花伝社
「共感報道」の時代 涙が変える新しいジャーナリズムの可能性
著 者:谷 俊宏
出版社:花伝社
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「「共感報道」の時代 涙が変える新しいジャーナリズムの可能性」出版社のホームページはこちら
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