企業広報誌の世界―広報誌から企業コミュニケーションを読み解く 書評|三島 万里(日外アソシエーツ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年10月6日 / 新聞掲載日:2018年10月5日(第3259号)

企業広報誌を網羅的に比較分析 
データブックとして類例のない労作

企業広報誌の世界―広報誌から企業コミュニケーションを読み解く
著 者:三島 万里
出版社:日外アソシエーツ
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日本の企業広報誌、あるいはPR誌と呼ばれる刊行物を広く対象として、網羅的に比較分析した一冊である。著者はこの分野の研究者として『広報誌が語る企業像』(日本評論社、二〇〇八年)ほかに成果をまとめているが、本書ではそれらの過程で集めた調査データをアップテートしつつ、基本的なインデックスとして使える形に編集している。

本文は四章と巻末付録からなり、データ部分に相当するのはおおよそ全体の三分の一を占める巻末付録と第二、三章である。第二章ではサントリーの『洋酒天国』、資生堂の『花椿』など一二業種から二社(二誌)ずつを比較、続く第三章では一一業種二一誌を個別にとりあげて企業と広報誌の概要を示す。同一企業でも、用途や時期によって複数のタイトルをもつケースが少なくない中で、分析対象が比較的メジャーなものに限定される憾みはあるが、ソースは多岐にわたり、データブックとして類例がない労作である。巻末目録ではその他の広報誌も含めて社名、誌名、刊行時期および頻度、継続前後誌を可能な限り示している。

著者によれば、従来テキスト型であった企業広報誌は、七〇年代以降にビジュアル化がすすみ、近年ではデジタル化・クロスメディア化するものがあるいっぽうで、休刊も目立つという。こうした傾向は、いずれも商業雑誌と共通しているが、雑誌刊行そのものを生業としない企業広報誌の場合は、刊行する動機、つまりは機能と目的がより重要になってくるだろう。本書では、この企業広報誌の機能を一一の項目に分類するのだが、上記のような変化にあって、内容面ではむしろ製品情報の伝達・解説から産業・生活文化形成・伝承を重視する傾向にある、という指摘は興味深い。

日本の企業広報誌の嚆矢とされる丸善の『學燈』、三越『時好』、明治屋『嗜好』は、いずれも商品に付随する輸入文化の紹介、普及を促した。明治期から戦前期まで続くこの「文化」志向は、九〇年代には「モノをつくる」から「暮らしをつくる」への思想的な転換として現れる。より端的には消費社会の成熟、さらにはバブル経済による企業側の「余裕」の産物ともいえそうだが、企業広報誌をいわゆる旦那芸と片づける言説に、著者は批判的な態度を隠さない。

それはおそらく、各広報誌がどのような形で企業コミュニケーションを成立させてきたかをこつこつと調査して導き出された、研究者としての実感によるものだろう。事例編の記述内容が発信側によりがちな点は気になるが、企業に求められる説明責任の高まりにつれて、コミュニケーションの方式が逆にテンプレート化していく問題は、たしかに広報誌の再評価を通して浮かび上がらせることができる。

最後に出版研究の観点からすれば、個々の出版社の研究として前出の『學燈』や岩波書店の『図書』、平凡出版の『平凡通信』などがとりあげられることはあっても、企業広報誌を対象とする研究は手薄だったといえる。八〇年代後半から九〇年代にかけては、広報誌とは別に、企業が出版部門を設けて書籍を刊行する企業出版がブームになり、出版取次のトーハンがシンクタンクとして設立した東販総研が調査レポートを出している。こうした活動もあわせて研究の俎上に載せることで、「出版」という活動の持つ意味を、別の角度から検討することもできるだろう。
この記事の中でご紹介した本
企業広報誌の世界―広報誌から企業コミュニケーションを読み解く/日外アソシエーツ
企業広報誌の世界―広報誌から企業コミュニケーションを読み解く
著 者:三島 万里
出版社:日外アソシエーツ
以下のオンライン書店でご購入できます
「企業広報誌の世界―広報誌から企業コミュニケーションを読み解く」出版社のホームページはこちら
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