鈴木薫×黛秋津=対談  新たな「世界史」の見取り図  『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月12日 / 新聞掲載日:2018年10月12日(第3260号)

鈴木薫×黛秋津=対談
新たな「世界史」の見取り図
『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)

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第2回
■文字とともに語彙と概念が入ってくる

■文字世界図

上の図は、世界の現況における文字世界の分布の略地図である。これをみると、黄色の漢字世界は、東アジアと東南アジア東端にまとまっている。褐色の梵字世界は、その源流たる南アジアのインド亜大陸と、その影響下に入った東南アジア大陸部を占める。そして、緑色のアラビア文字世界は、太平洋から大西洋まで、ほかの四大文字世界のすべてに接しつつ、「旧世界」の「三大陸」のつなぎめに拡がる。

これに対し、ラテン文字世界は、本体の赤色の西欧から、「大航海」時代以降、三大洋を通じ、桃色のオーストラリアを含む六大陸に植民活動を通じ拡がったのである。そして、非西欧諸社会中、いち早く「西洋化」改革で列強に伍した青色のロシアが、ユーラシアの陸上の植民地獲得活動により拡大した地域は、空色の空間が示している。(鈴木董)

鈴木 
 概念が入ってくると、ものを考えて表現する道具になるわけです。大和言葉ではそういうものがないので、難しいことを考えるためには漢語を受け入れる。大体今だって日本の新聞の見出しは殆ど漢語で、漢字が読める人であればその漢語を見れば意味が大体わかるわけです。そう考えると、イスラム圏のトルコを研究して良かったかもしれません。アラブをやると殆どアラビア語しか使っていない。ところがトルコ、イランの場合は、知識人になるためにはイスラムの聖典『コーラン』が読めなければいけないので、イスラムが入ってくるとアラビア語とアラビア文字を受け入れる。イラン人はもともと文字は持っていたけれど、それをやめてアラビア文字になってアラビア語の単語がたくさん入る。トルコ人も中央アジアでそもそもアラビア文字を受け入れだします。しかもトルコ人の場合は中央アジアからイスラム世界にイラン経由で入りましたし、イラン経由で多くのアラビア語の単語が入ったので、ペルシャ語の影響をすごく受けていますが、基本的にはアラビア語です。アラビア語を受け入れて文字をアラビア文字に変えると新しい概念が入ってくる。それに加えてアラブ人と違ってトルコ人の場合はイラン経由で入ってきたのでペルシャ語も入る。
黛 
 アラビア語の概念はアラブから直接ではなく、ペルシャ経由が多いですね。もちろん直接入るものもあるとは思いますが。
鈴木 
 それはおそらく非常に少ないですね。特に宗教関係以外の多くの言葉はペルシャ語からアラビア語を入れている。日本の場合は朝鮮半島を通って漢字も入ってきて、最初の頃は字を読めて書けてわかる人というのは、おそらく殆どが渡来人なんです。渡来人の殆どは朝鮮半島から来た人で、日本人で漢字が読める人なんてものすごく特殊な人だった。基本的に共有する文化・文明についての言葉、これを文化・文明語と名づけたいと思いますが、その文化・文明語としての漢文が同じだというのはすごく重要だけれど、そんなものがわかる人というのは人口の〇・一%ですとか、せいぜい一%ぐらい。ただ、それまで文字がなかったので文字とともに単語が入ってきやすくなって、それで日本には漢語が大量に入ってくる。つまり語彙が共有される。文化・文明語の共有というところから始めて、それを綴る文字と綴られる新概念が入ってくるわけです。
黛 
 本書を読んでそれがよくわかりました。文字が入ってくるということは、それにつられて語彙が入ってきて概念が入ってきて、しかもそれが文字がないところで伝えるよりは圧倒的に定着しやすいわけですね。それで確実に文化というものが広がる。
鈴木 
 文字の発明というのは文明の歴史においても、文化の歴史においても、決定的なイノヴェーションなんです。そうやって見ると朝鮮半島は、北朝鮮ができてハングル化宣言をして漢字を廃止してしまった。韓国では朴正熙(一九一七~一九七九)時代から、なるべく漢字は使わないようにしようとハングル化してしまったんです。でも、韓日辞典を見ると漢字が入っていて、ハングルだと何が書いてあるかわからないけれども七割くらいが漢語です。それからベトナムを見てみると、ローマ字になっているけれど大体語彙の六、七割は漢語なんです。日本語でも国語辞典と称していますが、大和語辞典ではなく殆ど漢語辞典なんですね。沖縄はちょっと違って沖縄(琉球)語の辞典は、ウチナーグチが主です。しかし沖縄でもエリートの人たちは大和の人間に比べると、中国語の漢文が圧倒的にできたんです。中国に留学しないと超エリートになれないですから、読んで書いて喋ることができた。当時の沖縄の人は中国で漢詩集なども出していて、中国人と協力して沖縄語中国語辞典を編纂したらしいのです。ただ、編纂したということはわかっているけれど、それが中国で発行されたかどうかはわからない。沖縄の文物の七、八割は沖縄戦中におそらく焼失してしまったので。当時は大和の人間が考えられないほど沖縄には中国の文化が入っていた。そのようにして、だんだん文字に興味が出てきたのですが、ただ文字圏についての考えをはっきり言い出したのは、二〇〇〇年に出した『オスマン帝国の解体』からです。
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この記事の中でご紹介した本
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ/山川出版社
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ
著 者:鈴木 董
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家/講談社
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家
著 者:鈴木 董
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家」出版社のホームページはこちら
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