鈴木薫×黛秋津=対談  新たな「世界史」の見取り図  『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月12日 / 新聞掲載日:2018年10月12日(第3260号)

鈴木薫×黛秋津=対談
新たな「世界史」の見取り図
『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)

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第5回
■「組織」と科学技術、経済システム

黛 
 それを徹底的に追ったというのは大変なお仕事です。十六世紀から十八世紀、その後もオスマン帝国の中で大きな変化があるわけですが、組織の方もそれに対応をして変わっていくことになるのでしょうか。
鈴木 
 最初の三〇〇年間はどちらへ行くかわからないけれど、十六世紀から回顧するとある一定の方向に向かって発展しているように見えるのです。そこででき上がったのは武人系官人の世界だったのが、十七世紀にキャリアが非常に分化して組織が固まっていく。その組織の部門ごとのキャリアができて、そのキャリアを伝って上に上がって行く道ができるんです。ところが十八世紀になると征服ができなくなってくる。
黛 
 軍事的に拡大ができなくなる。
鈴木 
 そうなると武人の方は防衛的戦争と国内の治安維持をやるだけでそれほど目覚ましい役割は果たせない。むしろ内政と外交が中心になって、文民派が中心になっていく。従来のモデルでは、トルコ人も西欧人も近代化史観で、十六世紀が黄金時代で後は堕落過程に入り、十八世紀末から十九世紀初頭になって近代西欧モデルを取り入れて復興していくと考えられていましたが、調べていくとそれは違うと確信したんです。イスラム世界の中ではオスマン帝国の領土が殆ど減っていない。
黛 
 十八世紀末まで、領内のヨーロッパ側では領地を取られるわけですが、それ以外のところでは決して減っていない。
鈴木 
 イスラム世界内では組織とか軍事技術における比較優位を失っていない。失ったのは西欧及びピョートル大帝の時代に西欧に学んでヨーロッパ列強になったロシアに対してだけなんです。これらに剥ぎ取られていくのですが、それも十八世紀末まではかなり限られている。だから堕落ではなくて発達の過程だった。
黛 
 発達の差でしょうか。
鈴木 
 組織と科学技術水準の発展と経済システムとの関わりが違ってくるのです。経済システムで言えば、「旧世界」の三大陸システムだった時代は陸と海のいわゆる「シルクロード」のターミナルがオスマン帝国内に全てあって国際経済の中心地だったのが、大航海時代以降、三大洋五大陸システムになってローカル線になってしまう。それがオスマン帝国の地盤沈下に非常にものを言いました。もう一つは軍事技術で、その差が決定的になったのは十六世紀の末から十七世紀初めのオランダ独立戦争(八〇年戦争、一五六八年~一六四八年)で、鉄砲大砲とそれから守るための城郭の築城技術が決定的に変わる。火砲の使い方は十六世紀の半ばまではオスマン帝国はヨーロッパより上だったんです。ヨーロッパで最高の鉄砲を作るのはイタリアですが職人芸で大量生産はできない。というのは買ってくれる大領主がいないんです。ルネッサンスの都市国家分立時代ですから。オスマン帝国の方は帝国内に砲兵工廠があってそこで一万五〇〇〇人を超える歩兵のための鉄砲を一律に作っていた。そういう点でアメリカに似ていて、品質はそこそこだけれど数撃ちゃ当たるという、大量生産ユニクロ方式(笑)。ヨーロッパの方はオートクチュールまではいかないけれど、プレタポルテ方式だから負けるんです。だから十六世紀の初めから十六世紀半ば過ぎまでは、少なくとも「旧世界」の三大陸の西半分で最高の軍事力を持っていたのがオスマン帝国だったんです。一方でその軍事力というのは、技術力よりは組織力でもっている代物だった。どう組織するかというのは決定的で、中世西欧世界においては、まだ封建的なシステムが残っていて、軍隊も財源の問題も組織の問題もあって大型の恒常的な常備軍を備えていないんです。西欧世界も絶対王政の時代に入ってきて、一円課税権を確保すると大型財源を元に常備軍を雇えるようになり、中央集権的な官僚組織ができてくる。オスマン朝は組織面でも技術的にも比較優位を失う上に、科学技術力、経済力でも差ができてくる。それは十七世紀に進行していたのですが、一六八三年の第二次ウィーン包囲でオスマン帝国が負けて表面化する。その頃からロシアでもピョートル大帝が出てきて改革が始まって力の変化がはっきり出てくるのです。
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この記事の中でご紹介した本
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ/山川出版社
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ
著 者:鈴木 董
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家/講談社
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家
著 者:鈴木 董
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家」出版社のホームページはこちら
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