鈴木薫×黛秋津=対談  新たな「世界史」の見取り図  『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月12日 / 新聞掲載日:2018年10月12日(第3260号)

鈴木薫×黛秋津=対談
新たな「世界史」の見取り図
『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』(山川出版社)

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第7回
■「文字世界」と宗教組織

鈴木 董氏
黛 
 組織には政治の組織と宗教の組織があると思うのですが、東アジアの漢字世界では宗教の組織がほとんど見えないですね。たとえば西ヨーロッパなどでは宗教の組織が圧倒的な力を持っていて、それがラテン文字世界ということになっています。イスラムもどちらかと言うとそうで、そこが圧倒的に違います。
鈴木 
 基本的にはアラビア文字世界としてのイスラム世界において、普遍性のイメージを支えているのは確かに宗教です。
黛 
 ヒンドゥー圏の梵字世界も同様で政治的にバラバラです。中国だけが一体化している。
鈴木 
 中国の場合は儒教そのものもどこか祖先祭祀的なところがある上に、裏宗教として道教があって、道教と仏教が結びついたような白蓮教というようなものまでありますが、唯一、体制を保つ基礎になっているのが儒学なんです。
黛 
 それは完全に政治政権を正当化する理論として使われているわけで、儒学者たちがネットワークをもって何かをやっているわけではない。
鈴木 
 儒学的素養を持った人間がエリートになっているわけです。中国の場合は礼の体系、行動規範の体系を持っているのが大きいと思うんです。礼は日本には体系的には浸透しませんでしたが、朝鮮半島では浸透した。ただ弱いのは法と礼が別になるんです。法で統治するのは力による支配になるから良いことではない。礼に従って徳によって治めることができるという徳治主義が中国の場合中心で、法と礼が分離しているのが弱い。その法と礼が一体化しているのが梵字世界とアラビア文字世界なんです。梵字世界の場合はダルマがあるわけです。ダルマは宗教的な戒律体系であると同時に裁判規範となり得る法律的部分も含んでいて行動規範の体系が含まれているのです。イスラムの場合はシャリーアがある。
黛 
 シャリーアはイスラム法と訳されることが多いですが、戒律プラス法のことですね。
鈴木 
 というより一体化してるんです。このシャリーアの担い手がウラマー(イスラム教学者)で、基本的にはユダヤ教のラビに近い戒律学者です。ユダヤ教のラビのことを律法学者と訳すのですがユダヤ教も戒律と法律の体系が一体化している。戒律の一部が法律なんです。その点、ヨーロッパのキリスト教は戒律体系が未発達なんです。ただ、ヨーロッパの場合は東西ともにキリスト教化した後に教会を通じてローマ帝国の衣鉢を継いでいる。EUを見ればわかりますが、EUは基本的には西欧カトリック・プロテスタント世界になった西欧の六カ国から成り立ったわけです。ただ、東ヨーロッパの人間が全世界をどう考えていたのか。
黛 
 世界秩序観ですね。そういう研究はあまりないです。
鈴木 
 東欧正教世界、ギリシア・キリル文字世界の世界秩序観もあるはずですがあまり論じられていない。
黛 
 ユーラシア主義とかそちらの方に行ってしまうのではないでしょうか。中世でどのように見ていたのかもよくわかりません。
鈴木 
 それは一つ、黛さんにやってもらいたい(笑)。
黛 
 ここまでいろいろなお話をしてきましたが、文字世界、文化圏、組織という観点で見ると歴史の変遷や現代の諸問題がとらえやすくなりますね。
鈴木 
 近年、人類の文明は限界に来ているという懐疑論が聞かれるようになりました。これまで、文明の生み出す負の結果に対するフィード・バックの概念が入っていなかったのが致命的だったと思います。それは技術としては、公害問題や原発問題にも現れる。政治的には民主主義も非常に制度化された政治的政策決定におけるフィード・バックシステムだととらえればいいのですが、いくら民主主義がよいといってもトランプや極右政党が出てくる。あれはいわば逆フィード・バックなんです。しかし、フィード・バックを常に意識するようになれば人類の文明の行く末も違ってくると思います。 (おわり)
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この記事の中でご紹介した本
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ/山川出版社
文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ
著 者:鈴木 董
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家/講談社
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家
著 者:鈴木 董
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家」出版社のホームページはこちら
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