映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー 劉文兵 書評|劉 文兵(東方書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年10月13日 / 新聞掲載日:2018年10月12日(第3260号)

映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー 劉文兵 書評
評価の基軸は素朴な「感動」 
日本映画の放った影響や魅力が語られる

映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー 劉文兵
著 者:劉 文兵
出版社:東方書店
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日中映画交流史研究の第一人者として旺盛な執筆活動を続けている劉文兵氏の新刊書である。本書には日中の映画交流にかかわるさまざまな発言が収録されているが、ここでは紙数の関係上、日本映画の評価という側面のみに焦点をあてその読後感を述べたい。

氏の著書が世の注目を集めるようになったのは、おそらく『中国10億人の日本映画熱愛史―高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』(二〇〇六)からだろう。

戦後、日本映画が中華人民共和国で本格的に公開されるようになったのは、文化大革命終結後の一九七八年からで、以来、堰を切るように日本映画が大陸で陸続と封切られ、大きな反響を巻き起こしていった。なかでも人々の目を奪ったのは、先陣を務めた作品のひとつ『君よ憤怒の河を渉れ』(七六)である。同作は中国全土を席巻するような空前絶後の大ヒット作となり、主演の高倉健にいたっては単なる人気俳優の域を通り越し、神話的存在となっていった。中国における熱狂的反応については日本でも早くから知られていたが、当時、その理由となると、いまひとつ判然としないところがあった。というのも、たとえば『君よ憤怒の河を渉れ』だが、著者も指摘しているように、日本での評価はさして高くなかったからだ(『キネマ旬報』のベストテンでは選外の一八位)。こうした疑問について真正面から答えてくれたのが、『中国10億人の日本映画熱愛史』であった。ここでは同作のヒット要因として、「物質的豊かさ」の放射と「勧善懲悪」のストーリー構成、「キャラクター像」の斬新さがあげられ、明快かつ簡潔な分析がなされていた。

当然ながら、中国の観客や映画界に大きな影響をあたえたのはこの作品だけではない。本書『映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー』では、当事者の肉声をとおして、同上の作品を含め、数々の日本映画の放った影響や魅力がより具体的に語られている。たとえば監督では、王好為が『遥かなる山の呼び声』(八二)の「心の芝居」、陳凱歌が『楢山節考』(八三)の鋭いリアリズム、張芸謀が『君よ憤怒の河を渉れ』の洗練されたエンタテインメント性、王超が『蒲田行進曲』(八二)の状況設定などに言及し、演出や構成、演技や技術の観点から作品の秀抜さを指摘している。が、なかでも興味をひいたのは、呉宇森の言葉である。彼が列挙した日本映画はほとんど娯楽映画で、それもB級映画と呼ばれているものが圧倒的に多い。とりわけ称賛されているのは「躍動感に富む」石井輝男作品で、彼の評価軸では石井輝男は黒澤明と同列視すべき監督とされている。これには、もちろん呉の得意ジャンルがアクション映画だということもあるが、香港では五〇年代から七〇年代にかけて日本の数多くのプログラム・ピクチャーが流入し、若者たちがそれらに熱狂したという史的背景とも無関係ではないだろう。時代状況が評価に影響しているという点では、『君よ憤怒の河を渉れ』のときと似通っているところがある。

しかしながら本書を通読して、日本と中国で評価に相違が起こってきたのはそれだけではないようにも感じた。つまり、評価の根底にある基軸がもともと異なっているのではないかということだ。そしてその最大の軸は、もしかすると素朴な「感動」それだけなのかもしれない。だが、衒学的な映画批評があまた存在する今日、そこから発せられるストレートなメッセージは、まさにそれゆえにこそ、逆に新鮮な光を帯び、心に響くものとなっているように思われる。

日中映画関係史を探るうえでおおいに参考となる文献がまたひとつ増えたといえよう。
この記事の中でご紹介した本
映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー  劉文兵/東方書店
映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー 劉文兵
著 者:劉 文兵
出版社:東方書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「映画がつなぐ中国と日本 日中映画人インタビュー 劉文兵」出版社のホームページはこちら
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