連 載 シネフィリーの二つの世代 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く77|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2018年10月16日 / 新聞掲載日:2018年10月12日(第3260号)

連 載 シネフィリーの二つの世代 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く77

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左からドゥーシェ、セルジュ・トゥビアナ、エヴァ・トリフォー、(一人おいて)今村昌平
HK 
 最近のドゥーシェさんは、「芸術作品の模倣は、それ自体が独特の作品になり得る」と繰り返し話されていますね。
JD 
 確かに、ある芸術作品を模倣するということは、批評行為と創造行為なしには語れません。さもなければ、その模倣するという行為に価値はありません。画家というものは、古くから偉大な画家たちから学んでいるものです。私が昔から一貫してもっている考えでは、偉大な創作家は根本的なところで批評を実践する人なのです。つまり、何をすべきで何をすべきではないかを、どことなく感じ取っている作家のことです。一方で、映画を制作するだけの人は、何が観客を喜ばせ何が商業的に上手くいくのかを、理解しています。創作家は何が上手くいくのかはわかりません。どこかへと向かっていかなければならないのは、創作家自身ですから(笑)。
HK 
 そのような考え方は、ドゥーシェさんだけではなく、トリュフォーやゴダールにも、つまり50年代の『カイエ・デュ・シネマ』に見られる特徴だと思います。というよりも、『カイエ』の果たした最も大きな転換点は、その点にあったのではないでしょうか。例えば、ラング、ヒッチコック、ニコラス・レイなどを、思想を実践している映画作家だとして考え始めた。そして、『カイエ』の若い批評家たちは映画作家たちの元を直接訪れ、そのような関係を通して、質問をすることにもなった。結果、哲学者のようにして質問に答えることのできた映画監督たちがいた。
JD 
 私が映画作家たちと、個人的な交流が持てたのは、他の多くの批評家とは異なり、より映画作家たちの見方に近いところから映画を考えてきたからだと思います。ヒッチコックとの直接的な交流が始まったのは、『鳥』の少し後、そして『マーニー』の撮影が始まる前の1963年のことでした。『鳥』が、カンヌにオープニング上映作品として出品された年です。上映翌日には、記者会見がありました。多くの批評家たちは、当然のようにしてその場にいます。しかしながら、彼らは映画について何もわかっておらず、「ヒッチコックさん、『鳥』を通じて原爆の恐怖を伝えたかったのでしょうか」などと、くだらない質問を繰り返すだけでした。今になって考えてみると、どうして彼らがそのような反応しかできなかったのかは興味深いことだと思います。どのような映画の記者会見にも、『鳥』において鳥と原爆を結びつけるようにして、その作品が何を代弁しているのかを問いただすことに必死になっている批評家たちがいました。このような見方では、映画作品をそのままの映画作品として理解することはできません。そうしたヒッチコックの記者会見において、私はいくつかの質問をしました。結果、最終的にはヒッチコックが私に話すことを求めたのです(笑)。

このようにして面識を持った直後には、エレイン・スコット(『ヒッチコック・トリュフォー』の通訳の女性)、ヒッチコック、私の三人で話をする機会がありました。その時にヒッチコックから、私に向けてひとつ提案があったのです。「ドゥーシェさん、7月の初めの予定は決まっていますか。ハリウッドに来ることはできるでしょうか。再びお会いしましょう」。そして、ヒッチコックの招待によって、私はファーストクラスの飛行機でアメリカに着き、その後も彼のお金で驚くような旅行をしました。ハリウッドについてから三日後には、丸一日サンフランシスコ旅行をする機会もあり、『めまい』に登場する当時のサンフランシスコで最高の料理も堪能しています。サンフランシスコで最も高級なホテルに滞在し、フランスの料理人による『めまい』のレストランへの招待を受けたのです。思い返してみても、本当に贅沢な滞在でした。そのようにして、ヒッチコックのもとには15日ほど滞在しました。ヒッチコックは映画批評を含む「映画」の救世主でしたが、私に対して行ったような待遇を、彼の映画をよく理解していなかった人にすることは決してありませんでした。

〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供・シネマテーク・ブルゴーニュ)
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