「実験劇場と唐十郎1958―1962」開催       明治大学駿河台キャンパス図書館ギャラリーにて|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月19日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

「実験劇場と唐十郎1958―1962」開催      
明治大学駿河台キャンパス図書館ギャラリーにて

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唐十郎氏が状況劇場を起ち上げる前、明治大学の学生時代に参加していた劇団「実験劇場」の資料と、最近発見されたばかりの、唐氏がまだ唐十郎を名乗る前の未発表小説とシナリオなど、貴重な資料が展示される企画展〈実験劇場と唐十郎 1958-1962 「アングラ」の前に「実験」があった!〉が、お茶の水の明治大学駿河台キャンパス図書館ギャラリーで、10月5日から始まった(10月28日まで、入場無料)。この企画について監修者である樋口良澄氏(批評家・唐十郎アーカイヴ運営委員)にお話を聞いた。
企画展チラシ〈左より実験劇場団員当時の古賀国靖・唐十郎・久間絋一郎 後に状況劇場に加わる〉

* * *

樋口氏が唐十郎氏と実験劇場の繋がりを初めて実感したのは、2006年に唐氏が受賞した明治大学特別功労賞の贈賞式で、祝いに駆けつけたかつての実験劇場のメンバーたちとの出会いによってだった。それ以後樋口氏は、メンバーとの交流の中から実験劇場に関することや、当時の唐氏についての貴重な証言や資料の存在を知ることとなったという。
「寺山さんもそうですが、唐さんは自筆年譜や自伝を書いているんですけど、それらは一種フィクションでもあるんですね。でも当時のメンバーの方たちに聞くと、そういうことだったのかということがたくさん出てくるんです。これは皆さんにある意味では歴史としてお伝えしなければという気持ちが出てきたのは確かです。」
展示には、アーサー・ミラーの翻案ではあるが、1959年にイプセンの「民衆の敵」の舞台に立つ唐氏(この時は本名の大鶴義英)の写真などもあり、状況劇場以降の活躍しか知らない人にとっては意外な印象もある。
「ベケットの『ゴドーを待ちながら』が日本で初演されたのが1960年ですから、その頃はまだ現代演劇には達していなかったんですね。鈴木忠志さんがいた早稲田大学の自由舞台なども、リアリズムと近代演劇を演っていたわけです。ただそうした中で、実験劇場の人たちも含めて、自分たちの表現を探していこうとしていた時代でもあるんですね。この時代はサルトルが大流行していて、実存主義演劇というものに非常に影響されていました。リアリズムの一方でそういうものが出てくる黎明期ということになるでしょうか。ただ、サルトルの演劇というのは、カミュもそうですが表現自体はリアリズムなんです。人間の不条理な状況を描いてはいても、ベケットみたいに解体していなくて、普通に男女が出てきて会話するという芝居です。それはリアリズムで育った人たちには受け入れやすかったわけですが、だからこそその実存主義よりもさらに先に行かなければいけないという気持ちがあったのだと思います。その中で唐さんもやはり小説だとか役者としての自分のことなどいろいろなことを探っていたのでしょう。」

1962年、唐氏は卒業し実験劇場を離れ、後の状況劇場の前身となる「シチュエーションの会」を結成する。
「あれはサルトルの「状況」(シチュアシオン)から来ているんですね。それまでの演劇にずっと飽きたらなかったのでしょうが、それをどう表現できるのかというところに達したんじゃないかという感じがします。」
展示風景
今回の企画は、唐十郎にスポットが当てられていることは言うまでもないが、同時に実験劇場の活動の歴史を知ることが出来る展示でもある。
「これは大事なことだと思います。先ほども話に出た鈴木忠志さんがいた自由舞台はわりと有名で、当時の大学演劇の一つの原点とも言われていて、『早大劇団・自由舞台の記憶 1947―1969』という本も出ています。やっぱり資料が残っているかどうかなんですね。明治大学の実験劇場は資料が残ってなかったんです。当時のメンバー20人ぐらいにお会いしたんですけど、皆さんそれぞれ一つか二つぐらいしか持ってないんですね。なので最初は展示が出来るかどうかという危惧も抱いたのですが、結果としてだいたい通して集めることが出来ました。これまでは早稲田と東大ばかりに目が向けられて、立派な活動をしていたように思われがちでしたが、今回初めてまとめて展示出来たので良かったと思っています。」
シナリオ『幽閉者は口あけたまま沈んでいる』
この企画は、タイトルどおり実験劇場と唐十郎氏の関わりであるが、それらの展示の中で最も目を引くものは、やはり何と言ってもこれまで知られることがなかった唐十郎になる以前に書かれた詩や小説、そしてシナリオ原稿だろう。ちなみにこの小説「懶惰の燈籠」とシナリオ「幽閉者は口あけたまま沈んでいる」は、樋口氏の解説とともに現在発売中の「文藝」冬号(河出書房新社)に全文が掲載されている。
「唐さんの詩としては劇中歌なども結構ありますから、もともと詩的感受性は持っていたと思いますが、当時のものはこれしか見つかっていません。これは小説についてもそうです。一番最初の作品が戯曲ではなくて小説だったというのは、僕にとっては驚きでした。ただ、唐さんは演劇の人と見られがちですが、小説への関心もその頃から相当あって、両方を往還しながら表現していったのではないでしょうか。今回展示している新発見の小説とシナリオは、完全に発表を意図していたのだと思います。というのは、実験劇場の先輩だったとはいえ、大学当時は面識がなかったシナリオ作家の布勢博一さんのところに持ち込んでいるからなんですね。布勢さんはその頃すでにラジオやテレビの仕事を始めて注目されていましたから。他にテレビやラジオに行った先輩もいる中で、いきなり布勢さんのところに行ったということは、やはりそういった野心があったのでしょう。

布勢さんはこの八月に亡くなられてしまったのですが、その前に私が行かなかったらこれらはどこかに行ってしまっていたかもしれません。ある意味では布勢さんから託されたような気持ちです。その時に布勢さんから聞いた言葉が、この展示の解説にも引用していますが、「1961年の後半に、まだ学生だった大鶴君が当時住んでいた柏の家にたずねてこられ、原稿を二本持参し、『先輩、書いてみたので黙って読んでください』と言って僕にあずけた。習作と思い、シナリオの方はすぐに映像化はしにくいと思ったが、大鶴君のだと思い、大事に保管しておいた」というものです。しかしこんなに早く亡くなられるとは思ってもいませんでした。もう少し当時のお話を伺いたかったのですが。」

小説やシナリオを読むと、のちの唐十郎として活躍するその片鱗が見えてくるような気がしてくる。そして展示から見えてくるのは、実験劇場に参加していたということそのものが唐氏にとっての一つの原点であったということだ。さらに言えば、これらの貴重な資料から浮かび上がってくるのは、当時の学生たちが生み出した熱気とも言えるような何ものかである。
「学生演劇と一口で言いますが、やはり今とは違うと思います。たとえば展示にもありますが、アーサー・ミラーが翻案したイプセンの『民衆の敵』を演じるにあたって、岡野さんという学生がミラーに手紙を書いて上演許可を得て、さらに自分で翻訳もしているんです。一学生がそこまでしてしまう。一種世界を変えてしまうような時代だったと思います。そのエネルギーがあった。また大学という場も今とは違っていたし、先生と学生が一緒にデモに行くというように、その関係も違っていました。今回の資料を見ていくと、学びと演劇が結びついていたことが分かります。学ぶことは成長することであり、成長することは善であるという理想をみんなで共有していた。そういう場として大学があったのだということを非常に感じます。この展示を見ていると、俺たちはこれだけのことが出来たのだから、お前たちだって出来るだろうというメッセージがそこにあるような気がしています。だからこそ今の学生たちにはぜひ見てもらいたい。実験劇場と唐十郎を一つのきっかけとしていろいろ考えていただきたいと思っています。」

【関連イベント】
劇団唐組 第62回公演【唐組30周年記念公演第2弾】
「黄金バット~幻想教師出現~」
[作]唐十郎 [演出]久保井研+唐十郎 

忍中旧校舎で開かれる風鈴学級。
「お前たちはまだまだ幼い。
だからまだ卒業させるわけにはいかないよ」
幻想教師が授ける巷を生きぬく術とは?!
◇10/19(金)20(土)21(日)各日19:00(18:30開場)
明治大学駿河台キャンパス構内10号館裏 猿楽通り沿い特設紅テント(JR「御茶ノ水」駅より徒歩10分、東京メトロ半蔵門線/都営三田線「神保町」駅より徒歩6分)
◇10月27(土)28(日)11/2(金)3(土・祝)4(日)各日19:00(18:30開場)
雑司ヶ谷・鬼子母神(「池袋」駅・都電荒川線「鬼子母神前」駅・副都心線「雑司ヶ谷」駅下車)
前売券三五〇〇円、当日券三六〇〇円、学生券三〇〇〇円(劇団でのみ販売〈当日受付で学生証を提示〉)
※入場整理券(前売り券と引き換え)及び当日券は、午後2時より受付にて発行。
チケット問い合わせ=唐組・チケットぴあ・イープラス
唐組 03―3330―8118
【その他問合せ】劇団唐組TEL/FAX03―3330―8118
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