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”Letter to my son"
更新日:2018年10月23日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

Letter to my son(13)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
彼女はバックから鏡とリップグロスを出し、たっぷりと唇にのばす。続けてアイブロウペンシルで左唇の下にホクロを作る。「好きなところに1つ書いてあげる」。「え、マジで?」「もちろん」。「……じゃあこの辺とか?」僕は目尻のあたりを指差す。

1999年の大晦日。僕たちはThe WEBへ向かっている。浮かれた観光客をすり抜け、かじかんだ手に、凍える高層ビルたちに、白い息を吹きかけながら、氷点下のマンハッタンを駆け抜ける。

彼女は同じ大学のファインアート科に在籍していて、蜘蛛の巨大彫刻で知られるLouise Bourgeoisに師事している。ダークなアイメイク、強い香水、タトゥーが入ったスキンヘッドに乗せたベレー帽とヘッドフォン。ハウスのリズムの海を泳ぐように、いつも静かに身体を揺らしている。

キャンパスで3度目に彼女を見かけた時、写真のモデルになってくれないかと思い切って声をかけた。彼女は少し驚いたようだったけど、長い間、僕を見つめてから「Sure。でも、肩幅がどうしても男だから、そこをうまく撮ってくれるなら」と笑顔で答えてくれた。その日を境に、僕たちはどんどん仲良くなり、ランチや授業の空き時間、放課後もよく一緒に過ごすようになった。ニューヨークで初めてできた友人だ。

The WEBはミッドタウンの58丁目にあるゲイクラブで、地下1階はバーラウンジ、地下2階は吹き抜けで踊るスペースになっている。どんなに課題や恋愛に忙しい時も、週末の夜は彼女とふたりで踊りに来る。入口前では可愛い仲間達が煙草をふかしている。「あ、ゴルチエガールとウォーリーを探せのふたりのお出まし」。「Calvin Klein逆に穿いてるし」。「えっ?!」。「冗談〜」。「も〜!」いつもにようにくだらない立ち話をしてから、僕らふたりは階段を駆け下りる。運命を輝かせてくれる(かもしれない)ホクロを光らせながら。
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