岸政彦×藤井誠二=対談  沖縄からの問いかけ  岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月19日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

岸政彦×藤井誠二=対談
沖縄からの問いかけ
岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)

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はじめての沖縄(岸 政彦)新曜社
はじめての沖縄
岸 政彦
新曜社
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九月三〇日の沖縄県知事選挙では、翁長雄志氏の遺志を継ぐ玉城デニー氏が圧勝、初当選を果たした。常に波乱含みで複雑に揺れ動く沖縄。その沖縄を理解する手がかりとなる二冊がある。五月に刊行された岸政彦氏『はじめての沖縄』(新曜社)は、若き日に「沖縄病」に罹りのちに社会学者となった岸氏が、沖縄の人々の言葉を聞き取り、沖縄と日本の境界線をみつめながら語り得る言葉を探し、その「歴史と構造」へと架橋を試みた沖縄論。
九月に刊行された藤井誠二氏『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』(講談社)は、「浄化運動」により消滅した沖縄の「特飲街」に生きた人々の声を現場で取材し記録することで、不可視化されてきた沖縄戦後史の裏面を描き出したルポルタージュ。着手から七年の歳月をかけ、途中クラウドファンディングで出資者を募るなどして世に問うた渾身の一冊である。

十月四日、旧知の間柄だという著者のお二人が登壇して行なわれた、荻窪・Titleでの刊行記念対談<人びとの沖縄戦後史 語り方を変えるために>を載録する。 (編集部)
第1回
■沖縄の別な顔 真栄原社交街

岸政彦氏『はじめての沖縄』(新曜社「よりみちパンセ」)×
藤井誠二氏『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』(講談社)刊行記念対談<人びとの沖縄戦後史 語り方を変えるために>
(於=荻窪・Title)写真は、藤井誠二氏(左)、岸政彦氏(右)

岸 
 僕は基本的に社会学でもなんでも、現場に入って話を聞く人が一番偉いと思っていて、尊敬しています。いろいろなノンフィクションライターの方がいますが、藤井誠二さんはその中でも、現場でものすごい取材をして、レベルの高い本を出し続けている方だと思ってます。藤井さんが休刊前のノンフィクション雑誌『g2』(講談社)に書いた沖縄の原稿が、実はすごくエモい(笑)。それくらい沖縄にエモいコミットメントがあって、こんなに行動力や取材力、筆力のある藤井さんが書いた本が、今回の『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』なんです。でも、僕もそうだったけど、沖縄が好きで沖縄に通う人って、なんか語っちゃうんです。自分と沖縄との出会いみたいなところから語る。あれ何なんでしょうね。
藤井 
 それぐらい「沖縄」との出会いが人生の中で大きな意味を持ってしまうからじゃないかな。宜野湾市の普天間基地の横にある真栄原新町まえはらしんまち、通称・新町という特飲街(特殊飲食店街)があったのですが、二〇一〇年前後から二〇一二年くらいに官民一体となった浄化運動で、今は人っ子一人いないゴーストタウンになっている。今回の作品は簡単に言うとそこから展開していくのですが、いま岸さんが沖縄語りみたいなことを言っていましたが、僕も二〇代前半はそうで、一九九〇年代のはじめの頃にタクシー運転手に連れて行かれたのが特飲街の存在を知るきっかけでした。
岸 
 それが、本書に出てくる「タクシードライバー大城」ですね。
藤井 
 そう。そして何ヶ月後かに偶然同じタクシーに出会って、彼はその頃四〇代だったと思いますが、そこから付き合いが始まった。彼のタクシーに最初に乗ったときに僕はいろいろ語ったんです。表面上よりちょっと深いくらいのしかも優等生的な沖縄の話を。そのときたぶん、彼はちょっとイラッとしたと思うんです。それで、沖縄の別の顔を見せてやると連れていかれたのが真栄原新町だった。タクシーから降りて呆然としたんです。ものすごい街だった。二〇〇軒くらい、旧・西ドイツで見た「飾り窓」のようなお店が建ち並んでいて、最初は僕は逃げ帰った。でも、タクシードライバー大城に再会してから、真栄原新町とか辻といった特飲街をまわって、街の「住人」を紹介してもらうようになった。特飲街って戦後はたくさんあって、一九五〇年代から六〇年代にかけて復興に伴ってめちゃめちゃできる。伊江島にもあったぐらいですから。それは全部米軍基地の周りで、同時に那覇の辻とか桜坂にも形成されていくのですが、現在は辻をのぞけば大半はほとんどかつての面影はない状態になっています。そこに全部連れていってくれるんです。そこから面白くなって、そういった街のスナックとかに出入りするようになって酒を飲みだした。 
岸 
 見せたい気持ちっていうのがよくわかる。複雑な重層的なものがあって見せたくなる。僕もよく、よそのひとが大阪に来ると、西成とか鶴橋とか連れていくんですよね。飛田新地の「鯛よし百番」みたいなところとか。大阪や沖縄の一面的なイメージを崩してやろうとか、そういう明確な意識は何もなかったりするのですが、それでも連れていきたくなる。あれは何なんだろうと思うんですけど。僕も真栄原新町は何回か通りがかったことがあるんです。当時は、細い曲がりくねった道の両側にバラックがバーッと並んでて、ぼんやりと怪しく光ってて、そこに女の子が無表情で立ってた。そういう街は、大阪でも他の街でも、日本中結構あるんですが、あれぐらい殺伐とした、荒涼とした風景というのは見たことがなかった。あの雰囲気はなんでしょうね。
藤井 
 正確に言えばバラックのところもあれば低層の雑居ビルみたいな建物もあって、時代時代で違う。一番古いのは一九五〇年代前半のものからある。でも、そこに行くと荒むような気分になりました。女性たちは自分の身体を売ろうとしてるんだけど、一切歩いてるお客さんの方に目もくれず俯いたまま座って文庫だけずっと読んでるとか、年配の六〇代とかの女性は待ちぼうけで、そういう女性が実は多くて、人気のある女の子は全体のごく一部で、荒涼とした感じでしたが、当時はまだ取材モードではなかったんです。
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この記事の中でご紹介した本
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち/講談社
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち
著 者:藤井 誠二
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
はじめての沖縄/新曜社
はじめての沖縄
著 者:岸 政彦
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「はじめての沖縄」出版社のホームページはこちら
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