岸政彦×藤井誠二=対談  沖縄からの問いかけ  岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年10月19日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

岸政彦×藤井誠二=対談
沖縄からの問いかけ
岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)

このエントリーをはてなブックマークに追加
第2回
■「ヤバいよ。もう街がなくなってるよ」

岸 政彦氏
岸 
 本当によくここに入れたなと。どうやって入ったの?
藤井 
 タクシードライバーの大城さんという紹介者を軸に、内部にいる人にちょっとずつ話を聞いていった。大城さんから始まって地元の社交街組合とかヤクザの親分とかいろいろな人に会っていく。沖縄って特に「紹介」を大事にする社会で、そういう夜の共同体の中を歩いていった感じかな。
岸 
 沖縄は本当に横社会で、誰かの紹介がないと入れないですよね。
藤井 
 普通の取材だと人から人へ紹介されてゆるやかにつながっていくものなんだけど、沖縄の場合は誰々の紹介ということがものすごく大事でダイレクトにつなげてくれた、特に僕が取材を始めた頃は、「ちょんの間」がまだ隠れて営業してたので、横のつながりの中に入らないと、こんなおっさんに二〇代の女の子たちが話してくれるわけがない。
岸 
 僕のやってる生活史の聞き取り調査でも同じで、老人会の幹部の方とかで、特にお世話になっている人が必ずいるんです。余談ですが、ある内地の社会学者が沖縄のある地域でアンケート調査をしたんです。内地の大学名を書いて郵送して集めたら、回収率がたった二%だった(笑)。こっちから調査に入るときは、内地の大学名じゃなくて、例えば琉球大学の先生を窓口にして、琉大の名前を使わせてもらうとかしないと駄目。そういう社会なんです。僕は人付き合いが下手で、フォーマルなルートから紹介してもらうことが多いので、手ぶらで一人で入っていって、地元のヤクザとかそこで働いてる女性とかと関係を作っていくというのはすごいなと。
藤井 
 そこは時間がかかりました。なぜその仲介者が大事かというと、その人たちが語り手の女の子たちの生活全体を見て世話しているんです。働いている女性はほぼシングルマザーで子どもをどこかに預けて昼間は働いて、夜だけ売春するとかあるいは終日そこで働く場合もあるけれど、その仲介者にすがるような形で互助グループみたいなのがあって、その仲介者がいないと生活が成り立っていかないような感じになっている。女性たちも夫から暴力を受けるとか、働かないとか、親がアル中だとかいろんな問題があるけれども、そういうことを全部そういう人に相談するんです。仲介者は場合によっては親を叱りに行ったり恋人や夫を怒りにいくこともある。そういう小さな共同体がたくさんあって、その仲介者と親しくなれれば、彼女たちにとっては「親」みたいなものなので話してくれる。
岸 
 この本の中に何度も出てくるんですが、「もうすぐこの街がなくなるから書きとめておいてほしい」と言われてますね。僕もいま沖縄戦体験者の聞き取りをしているのですが、同じことを言われる。沖縄戦の体験者がもうすぐいなくなる。だからその前に書きとめといてほしいと。そう言われたことをこれを読んで思い出した。だから消えかかっていたというタイミングがあるんじゃないですか。
藤井 
 それは全くの偶然で、僕もそういう街に足を運ぶ回数は初めて連れていかれたときからは減っていって、摘発が散発的にやられてるっていうのは新聞なんかでも分かるんですが、「ヤバいよ。もう街がなくなってるよ」っていう電話をくれたのがタクシードライバー大城からで、二〇一一年とかそのあたりです。
岸 
 しばらく前からすでに消えかかろうとしていた。
藤井 
 しばらくは警察と交渉したりして何年かは続いていたんだけれども、全盛期のような状態は終わっていく。その時にたまたま僕が街の様子や歴史について『g2』に短編ルポを書いていたということもあって、それを見せたら、街のことをちゃんと書いておいてほしい、記録しておいてほしいと言われるようになった。自分たちの仕事は誇れるような仕事ではないし反社会的だしよくないことだとは思っているけれど、戦後六〇~七〇年生きてきた人たちがいる。街は受け皿にもなっていて、ほとんど人身売買で内地から飛ばされる女性たちもいたけれど。それはいい悪いではなく、そういうところで生きてきた人たちがいて、そこをちゃんと正確に書いておいてほしいと街の人たちから言われるようになった。最初に『g2』にルポを掲載した時に札幌や四国からも連絡がありました。昔そこで働いていました、あなたが書いていた通りですと。街で生きた人たちは、何か残しておいてほしいんだな、そういう気持ちがあるんだなということを感じたんです。
岸 
 僕が西成に東京や外国のお客さんを連れていくのもどっか似てるんだろうな。誇りに思って見せびらかすんじゃないけれど、こういうものがあるんだよと伝えたい、手渡したい。西成も消えかかっていて、労働者のおっちゃんもたくさんいますが、いまはもう高齢者が生活保護をもらっている街でもあるんです。そういった、変わりつつあるもの、消えつつあるものを、何か見せたいみたいなところがあって、タイミングも良かったんだと思う。
1 3 4 5 6 7 8
この記事の中でご紹介した本
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち/講談社
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち
著 者:藤井 誠二
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
はじめての沖縄/新曜社
はじめての沖縄
著 者:岸 政彦
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「はじめての沖縄」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
岸 政彦 氏の関連記事
藤井 誠二 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >