岸政彦×藤井誠二=対談  沖縄からの問いかけ  岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年10月19日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

岸政彦×藤井誠二=対談
沖縄からの問いかけ
岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)

このエントリーをはてなブックマークに追加
第4回
■「私達の街は私達で守ります」

岸 政彦氏
岸 
 僕はこの本(『はじめての沖縄』)の中で、沖縄らしさのひとつとして「自治の感覚」という言葉を使ってますが、安里(あさと)という街に面白いものがありますよね。駐車場の壁に手書きのペンキで「私達の街は私達で守ります」という謎の宣言が書いてあって、たぶん暴力団対策で書いたと思うんですけれど、すごく象徴的な言葉のように思えました。やっぱり沖縄戦で一度社会秩序が完全に解体して、二七年間米軍に占領されて、その上で構築されてきた感覚なんですよね。吉川博也さんという地理学者が『那覇の空間構造』(沖縄タイムス社)という本を書いてるんだけど、那覇の道路がなんであんなにグチャグチャなのかという、あれは要するに上から統治する権力者がいなかったからで、都市計画が全くないとああなるんだと。沖縄の空間構造というのは、沖縄の社会構造や社会規範の空間的表現なんだと書いていて、すごく納得した。真栄原や照屋が完全に消滅して、栄町が少し残っているけれど、これほど急激になくなったのは、沖縄の社会構造の根底からの変動の表れだろうなと思っています。よく覚えていますが、国内でヘイトスピーチが始まって、一番酷かったのが二〇一三年ごろ。大阪の鶴橋で女子中学生が「朝鮮人を大虐殺します」という街宣をしたときでした。僕はそれからカウンターとして、ヘイトデモの現場に通ったんですが、そのときに地元の在日の友人が言っていたのが、「十年前だったら怖いお兄さんが飛んできて止めさせてた」という言葉でした。確かにあんなことが堂々と鶴橋でできるようになったのは、僕らの中で多分自治の能力が失われていっているんだろうと感じたんです。それと同時期に沖縄で真栄原新町が消滅していく。しかもそれを先導した人びとのなかに、伊波洋一さんや東門美津子さんという、リベラル側の政治家たちもいた。
藤井 
 東門美津子さんというのは沖縄市の市長で大田昌秀さんの弟子ですね。
岸 
 僕は大阪に住んでいるのですが、大阪と那覇でそういうことがパラレルに進行しているように見える。ここ十年、二十年くらいでほんとに変わったな、「自治の感覚」みたいなものがなくなってきたなと思うんだけど、でも同時にそれを、ノスタルジックに語ったらあかんとも思うんです。沖縄も自治があったとか、大阪もヤンキーの兄ちゃんたちがいて、みたいなパッチギ的なノスタルジーとか。それってどうなのともう一回ひっくり返して本当にその時代が良かったのかと考えてしまう。例えばこの『沖縄アンダーグラウンド』でも、出てくるのはほとんど人身売買みたいな事例でしょう。壮絶な貧困と暴力の話が多い。そういうのは、ノスタルジックに捉えたらダメで、やっぱりストレートに社会問題として、普通に改善することを考えるしかない。
藤井 
 僕も二〇代から沖縄病になって、やっぱりどこかでノスタルジックな沖縄の風景があるんです。あと、本を書き上げた今もわからなかったことの中の一つに、沖縄の戦後の島マスさんたち女性活動家による売春女性の救済運動の流れと、今の「浄化運動」が連続しているのか連続していないのかということがありましたが、僕はもう淡々と現実を記すことにしました。
1 2 3 5 6 7 8
この記事の中でご紹介した本
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち/講談社
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち
著 者:藤井 誠二
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
はじめての沖縄/新曜社
はじめての沖縄
著 者:岸 政彦
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「はじめての沖縄」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
岸 政彦 氏の関連記事
藤井 誠二 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >