岸政彦×藤井誠二=対談  沖縄からの問いかけ  岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月19日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

岸政彦×藤井誠二=対談
沖縄からの問いかけ
岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)/藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)

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第8回
■「かわいそうだと思えますか?」

藤井 
 『はじめての沖縄』の中で「岸さん」と取材者からインタビュー中に何度も名前を呼ばれて、その声が耳から離れないと、岸さんは書かれていますが、この名前を呼ばれるというのはどういう感覚なんですか?

岸重い経験でした……。沖縄戦の調査は、ずっと長いことできなかったんです。腹を据えて正面からやろうと、二、三年前からその調査を始めたのですが、夏休み、春休みとずっと通って、話を聞いてたら、だんだん辛くなってきて……。その話の最中に名前を呼ばれるわけです、「岸さん」「岸さん」って。ただでさえ重いお話なのに、固有名を呼ばれて、しかも「岸さん、日本人は加害者なんですよ」と言われる。そういう話を現場で聞いたあと、研究室に帰って、じゃあ自分が何を書けるんだろう、と思った。そのことをもうすぐ出る『マンゴーと手榴弾 生活史の理論』(勁草書房)という本で書きました。
藤井 
 僕は今回の取材で二~三〇〇人から聞き書きをしてきて、「藤井さんはどう思うか」とたまに聞かれることもありましたが、僕はあまりそれに引っかかったことがなかった。事件取材しててもそう。
岸 
 僕はわりとそういうことを考える方だから、語りに引きずり込まれるんです。藤井さんは被害者、加害者の両方に聞いたりするし、いちいちコミットメントして引きずり込まれたら書けなくなってしまう。それはそういう仕事だから、根本的に、沖縄戦の体験者に話を聞くのとは違うと思いますよ。でも社会学者の仕事をしてて良かったなと思うのは、そうやって語りの中で気づいたことを、すぐに商品化せずに、じっくり理論化して考えられる。いま自分の調査方法論を作っていて、ポスト構築主義的な「方法論的実在論」でやろうとしている途中なのですが、『マンゴーと手榴弾』の冒頭にその語りが出てきます。その語りそのものを、序文で抜き出して書いています。
藤井 
 僕も本の中で、「この売春の世界の子たちが、かわいそうだと思えますか?」と経営している女性に問われたりしていますが、そういうシーンを意図的に残したんです。僕はそれに対して明確に答えていないし、実際答えられないんですが。
岸 
 でも、この本(『沖縄アンダーグラウンド』)一冊書いたということがひとつの答えだ、というのはあると思う。僕は実際に言われたことはないけれど、「ナイチャーにわかるの?」みたいに突きつけられる感じはわかる。もし言われたとしてもその場で答えられない。黙るしかない。何年もかけて良い本を書くことで、「仕事でご恩返しする」しかない。
藤井 
 こういうテーマで取材して「ヤマト」の「男」でという最悪の条件が揃う中で、わかるのかと問われたときに何重もの意味で響いてくるんです。俺はそこのどこに答えればいいのか、その場でどう答えればいいのかわからない。岸さんはこの本の中で一生忘れないと書いているけれど、俺はむしろ困ってしまった。どう答えていいかわからないし正解があるわけでもない。そこで自分の意見を言えば、これは別に沖縄の話だけじゃなくて、そこで決裂する可能性もあるわけだから。
岸 
 傷つけちゃうんだよね、相手を。
藤井 
 そこはその場をどのようにしのごうかということで精一杯。
岸 
 開き直らずに、黙って酒飲むしかないよね。僕は國分功一郎さんの『中動態の世界』(医学書院)が面白くて好きなんだけど、それこそ中動態的に、開き直らないけど止めもしない、みたいな。うじうじと考えながらも、日常的、世俗的な仕事は続ける。ところで、藤井さんの沖縄の本は続きが出るんですか?
藤井 
 これから街がどう変遷していくかは見ていこうと思いますけど。今回のテーマも沖縄を移動していくうちに出合ったので、移動は続けていきたいですね。

(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち/講談社
沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち
著 者:藤井 誠二
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
はじめての沖縄/新曜社
はじめての沖縄
著 者:岸 政彦
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「はじめての沖縄」出版社のホームページはこちら
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