ちょっと待った!その言葉 書評|安井 二美子(花伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年10月20日 / 新聞掲載日:2018年10月19日(第3261号)

ちょっと待った!その言葉 書評
「ことば」で読み解く日本文化・社会論 
「ヒエラルキー」「ゆがみ」「差別」を解剖する

ちょっと待った!その言葉
著 者:安井 二美子
出版社:花伝社
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「(LGBTは)子供を作らない、つまり『生産性』がない」と書いた、自民党「女性議員」の文章が“爆上”した。「女性議員」としたのは、「男性支配社会」の中心から疎外されてきた女性から発せられたことに意味があると思うからだ。差別される側が、自分より弱い側を差別する「差別の連鎖」の典型。

本書は言語学が専門の著者が、「ことば」を手掛りに日本社会に潜む「ヒエラルキー」「ゆがみ」「差別」を、次々に解剖する現代日本文化・社会論である。われわれの意識は、日本語文法という言葉の影響下にある。「なにげ」に発する多くの「ことば」は、「常識」と認知されている場合が多い。それらの「常識」は、社会の変化に裏切られ「非常識化」しているものもあるのだが、変化しない「ことば」によって規定されているわれわれの意識は変わらない。

「女医」という言葉はあっても、「男医」はあまり聞かない。なぜか。著者は「ことばが社会から独立し客観的に存在するものなら、『男医』ということばがあって然るべき」(p8)とした上で「(社会が)必要としないことばは存在しない」と読み解く。

日本医科大で、入試結果を操作して女子合格者数を三割以下に抑えようとしていた事実が発覚した。メディアは「女性差別」と非難したが、結婚・出産など離職率の高い女性を実は「非生産的」と見做してはいないか。医学や大学に限った話ではない。入社試験で同じトリックを使う企業は少なくないと思う。

関心は「ガイジン」にも向く。欧米人に対しては「イタリア人」「イギリス人」と呼ぶのに、中国人や韓国人に対しては、「韓国人」ではなく、「韓国の人」、「中国の人」と呼ぶのは「『女』が差別的であるため、『女の人』をつかうのに似ています」。著者の夫は日本生まれの華僑。日本籍を取得しようとする在日外国人に対し、法務局は手引書で「日本人にふさわしい氏名」を求めるという(p14)。日本人になるなら、「複合的アイデンティティを捨てろ」と言わんばかり。
国家を頂点とするヒエラルキーが、個人や家族のアイデンティティを今も規定し支配し続けている現実を、どれほど自覚しているだろうか。筆者が、その源の一つとして家父長的な「家」を単位とする日本独特の「戸籍制度」(p251)に求めているのは興味深い。

構成は「多文化社会」「多言語社会」「高齢化社会」「男性支配社会」の四部からなる。第四部では、「いい男」「いい女」「男らしさ」「女人禁制」などの言葉を俎上にあげ、「女と男の不均衡」が変わらない実態をえぐる。本書のハイライト部分である。

「女子力」とは、著者によると「男を立てる」「細やかな気配り」「家事が得意」など、「女らしさ」に近い意味だそうだ。「女らしさ」ということばが、本質を変えずに「女子力」と名前を変えて「ゾンビのように蘇ってきた」(p157)という指摘は鋭い。

「女性蔑視」ということばはあっても「男性蔑視」はない。「言葉に対応する実体がない」(p122)からだ。「男流作家」「男子アナ」「男神」もない。使われないからだ。ことばは「人間がつくりだしたものであるがゆえに、不均衡、差別的といった矛盾を内包する」(p230)。明治維新から150年を経て、「単一民族」、「単一言語」の虚構性はだんだんあぶりだされている。国際結婚や外国人労働者が増えている実相に合わないためだ。だがその変化に、言葉は追い付かない。「単一」と「多様性」のせめぎあいはこれからも続くのだろう。

柔らかな「話し言葉」の文章は分かりやすく、するすると読める。本質に迫ろうとする姿勢から多くの知的刺激を受ける。「なにげ」に言葉を発する前に、まずその言葉を一回飲み込もう。凶器にもなる言葉を選らぼう。題名に込めた筆者の思いだ。
この記事の中でご紹介した本
ちょっと待った!その言葉/花伝社
ちょっと待った!その言葉
著 者:安井 二美子
出版社:花伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ちょっと待った!その言葉」出版社のホームページはこちら
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