ドイツ植民地研究: 西南アフリカ・トーゴ・カメルーン・東アフリカ・太平洋・膠州湾 (後発帝国主義研究) 書評|栗原 久定(パブリブ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年10月27日 / 新聞掲載日:2018年10月26日(第3262号)

開拓的な諸研究を踏まえて
悪戦暗索しながらの成果を提示

ドイツ植民地研究: 西南アフリカ・トーゴ・カメルーン・東アフリカ・太平洋・膠州湾 (後発帝国主義研究)
著 者:栗原 久定
出版社:パブリブ
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ドイツが第一次世界大戦に敗れ、それまでアフリカやアジア太平洋において所有していた、本国を数倍上回るようなスケールの植民地を全て失って以来、二〇世紀も終わりに近づくころになると、国民のこれら植民地に対する記憶喪失、歴史忘却は、全く不思議な現象ではなくなっていた。ヨーロッパの植民地研究も大抵は英仏の植民帝国研究に焦点があてられ、ドイツのコロニアリズムが、当時からドイツの植民社会のみならずドイツ社会全体にどれほど強力なインパクトを与えていたか、またコロニアル・メンタリティや植民地での活動・実践がナチ時代を含め、その後の「ポストコロニアル」世界にどれほど深甚な影響を与えているのかという重大な問題に想到しない時期が長く続いたことも否定できない。

ところが、ここへきてドイツではコロニアルヒストリーは最も研究が著しく盛んになった分野のひとつに数えられるようになってきている。それと同時に扱うべき問題の範囲が広すぎて、論じ始めたらその大変さに、一筋縄ではいかない複雑な対象を前にしているという認識もようやく共有されるようになってきているのである。ドイツ史の学問的注視、公論上の認知からすれば、一九九〇年代に入るまでその重要性が(再)発見されず「終わっている」テーマとされていた上記の状況に鑑みるとそれだけ一層注目に値するといえよう。

日本ではドイツ植民地全体が観望できる体裁をとった本書のようなハンドブック的概説書がこの間特に待望されていたといっても過言ではない。そうであればこそ、各地域におけるドイツの征服ないしコントロール開始後の動向のみならずその前史、また鍵となる一連の人物群に関する本書における詳解が、もっと整理消化された形で提示されたならば、研究者や学生にとっては裨益するところきわめて大だったであろうと惜しまれる。それに写真資料や地図が実に豊富ながら、研究という標題を掲げているにもかかわらず、肝心な出典開示、引用明示が皆無なのも本書の価値を引き下げる看過しえない欠陥の一といわざるをえない。

しかし無物強請ばかりで、一歩でも富永・永原両教授はじめ開拓的な諸研究を出んと悪戦暗索した本書の成果にも触れねば片手落ちになるであろう。そのひとつは何といっても第一次世界大戦の独植民地、なかんずくアフリカと太平洋の動向が少なからず明らかにされた点である。第二は、独植民地の行政機構の組織的解明、そして第三は、植民地住民反乱・蜂起への鎮圧の壮絶な実態の追究への寄与があげられよう。紙幅の関係で第三点に絞って少し論点を敷衍すれば、独領西南アフリカにおけるへレロ族・ナマ族に対する植民地軍の闘いは、近年益々ジェノサイドと位置づけられつつあり、また同時にツィンメラー等独植民地研究を領導してきた代表的研究者の間では、一九〇四年に始まるこの「殲滅戦」と第二次大戦下ナチによる東部での絶滅戦争との間に重大な連関を認め、「アフリカ」から「アウシュヴィッツ」への道は一直線をなしていたとされている。この連続性テーゼが独植民地叙述のむしろ特殊性を形づくってきたのであり、ナチの「過去」をめぐる議論のほうに重点をなおシフトさせ続けている傾向は否めない。本書は、反乱そのものに伏流していた土地収用問題と労働徴発・強制問題を西南アフリカのみならずカメルーンや東アフリカ、さらには太平洋諸島について比較洞察する視点を見失うことなく各個つぶさに検討、大洋島嶼地域ではサモアでの中国人導入、これに加えてニューギニアでは東南アジアからも労働力を調達した事例など、興味深い問題緩和策にも目を配りつつ、結局それも成功しなかったと結論づけているが、植民地統治が独本国と現地の二国間的枠組みだけでは十分には解明できないこと、むしろヨーロッパ全体の膨張、世界経済の枠組みにそれを据えてこそ、真の実態を明らかにできるということを、全篇を通じておぼろけならず示しているといえる。
この記事の中でご紹介した本
ドイツ植民地研究: 西南アフリカ・トーゴ・カメルーン・東アフリカ・太平洋・膠州湾 (後発帝国主義研究) /パブリブ
ドイツ植民地研究: 西南アフリカ・トーゴ・カメルーン・東アフリカ・太平洋・膠州湾 (後発帝国主義研究)
著 者:栗原 久定
出版社:パブリブ
以下のオンライン書店でご購入できます
「ドイツ植民地研究: 西南アフリカ・トーゴ・カメルーン・東アフリカ・太平洋・膠州湾 (後発帝国主義研究) 」出版社のホームページはこちら
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