『脱原発の哲学』は語る 書評|佐藤 嘉幸(読書人)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年10月27日 / 新聞掲載日:2018年10月26日(第3262号)

混沌とした時代の道標に
私たちの生きる「いま、ここ」を鋭く問う

『脱原発の哲学』は語る
著 者:佐藤 嘉幸、田口 卓臣、前田 朗、村田 弘
出版社:読書人
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いつも立ち寄る駅の書店に、「哲学コーナー」が特設された。大きな物語が解体され、地に足をつけた小さな物語が無数に生みだされたあとには、それらを文脈づけ、再構築していくための哲学が欲望される。危機の時代であったら、なおさらだ。混沌とした時代に光を見いだそうとするとき、哲学はおおいなる道標になる。電子書籍というスタイルの『「脱原発の哲学」は語る』も、そのような一冊だ。

本書は、佐藤嘉幸・田口卓臣著『脱原発の哲学』(2016年、人文書院)を受けて企画された連続インタビューの記録(1~3章)と、「福島原発かながわ訴訟」の村田弘原告団長へのインタビュー(4章)、同裁判の本人尋問傍聴記(5章)で構成されている。「脱原発の哲学」は「脱原発」にとどまらず、福島原発事故後の危機の構造を、沖縄の基地、東京オリンピック開催を間近にした「日本イデオロギー」、沈黙を強いられる弱者や核兵器や「核の傘」といった諸問題と結びながら、私たちの生きる「いま、ここ」を鋭く問う。

1章では、歴史的事実に対する「否認」の結果が「風化」の内実であると示される。「福島は全然大丈夫です」と無邪気に語る若者たちは、放射線教育の「成果」そのものである。目の前にある危険や潜在的な危険を否認し、「核=原子力」をコントロールできるかのように妄想する「核アポカリプス不感症」の首相のもとで、放射線をめぐるリスクコミュニケーションとセットで住民の帰還政策が推し進められる。「避難する権利」を求める声は聞き入れられず、各地で提訴された避難者訴訟では、未だ被害にみあう損害賠償額は認められていない。原発というテクノロジーの危険は「差別に基づいて分配」され、事故後に生じた新たな危険も「差別に基づいて分配」される。「立場の弱い者は立場の強い者に対して歯向かうことができないことを、立場の強い者、つまり国や政治家、官僚機構はよく知っているから」だ。

続く2章では、「弱い者」を欺き、愚弄する「否認」の手立てが描かれる(「否認」が避難者に与えるダメージや、国・東電の恥じることなく避難者を貶める手法は4~5章にも描かれる)。小児甲状腺ガン患者の増加に対し、「科学者」や「専門家」は、過剰診断が原因だと被曝の影響を「否認」する。社会やコミュニティの破壊である「故郷喪失」という事態も、帰還政策を進めてなかったことにしてしまう。避難者の苦境は一層深刻になり、避難した子供のいじめも後をたたない。背景には「国が率先して避難者を切り捨てる姿勢を打ち出しているという事実」がある。本書は、こうした構図を近代産業技術社会のシステムに敷衍し、「戦争と公害は不可分のセット」であり、「このセットの延長上に、『戦後日本』における核兵器と原発の等価性という事態が生成する」と述べる。「歴史的、系譜的な視点」を持つことではじめて、こうした「『近代』の問題構成」が見えてくるのである。

3章は、「核」の軍事利用(=核兵器)と平和利用(=原子力発電)という区分が排され、「核兵器」と「核発電」による「核時代」が議論の俎上にあがる。「脱原発の哲学」は、「脱核時代の哲学」であり「脱近代の哲学」として展開されていく。地方を周縁に汲みこんで経済的=政治的に差別する「構造的差別」がまかり通る「『近代』の問題構成」は、何を手掛かりにして変革しうるのだろうか。本書は、高木仁三郎の市民科学(=「市民の、市民による、市民の科学」)と、「下からの民主主義」、市民が直接に政治に参加しうる「ラディカル・デモクラシー」にその解を求める。

インタビュー記録という体裁をとる本書は、難解な「哲学」の言い回しに苦しむことなく、軽快に読み進めることができる。強いられた「風化」の時間を巻き戻しながら最後のページを読み終えた時、「いま、ここ」の位相に、未来への可能性を信じる力が宿るに違いない。
この記事の中でご紹介した本
『脱原発の哲学』は語る/読書人
『脱原発の哲学』は語る
著 者:佐藤 嘉幸、田口 卓臣、前田 朗、村田 弘
出版社:読書人
以下のオンライン書店でご購入できます
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