人魚ノ肉 書評|木下 昌輝(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年10月27日 / 新聞掲載日:2018年10月26日(第3262号)

木下 昌輝著 『人魚ノ肉』 
神戸松蔭女子学院大学 細谷 綾香

人魚ノ肉
著 者:木下 昌輝
出版社:文藝春秋
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人魚ノ肉(木下 昌輝)文藝春秋
人魚ノ肉
木下 昌輝
文藝春秋
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〈八百比丘尼伝説〉。人魚の肉を食べて人寿八百歳生きたとされる長命の比丘尼のことを指す。その伝説をベースとして木下昌輝氏によって書かれた『人魚ノ肉』。ちなみに著者は、2012年にデビュー作『宇喜多の捨て嫁』で直木賞候補となり、文学賞五冠を獲得した小説家。他に『敵の名は、宮本武蔵』、『宇喜多の楽土』など、主に歴史小説を書かれている。

この小説の舞台は幕末の京都。歴史上の人物、坂本竜馬や岡田以蔵、新選組が、実は吸血鬼やゾンビ、ドッペルゲンガーのような怪異だったとしたら、という伝奇小説である。〈人魚〉というテーマで書かれている伝奇小説は書店でほとんど見かけたことがなかった。その為、珍しいなと感じ、本書を手に取った。

この作品は短編集のように八話で構成されている。その短編ごとに主人公が変わり、どの物語も必ず〈人魚〉が絡んでくる。

第一章はこの物語を読むうえで、重要なことが書かれている。この章の主人公・坂本竜馬が、子供時代に中岡慎太郎、岡田以蔵と人魚と出会った出来事を回想する場面である。しかし人魚の怪異が始まるのは坂本が見廻組に殺される場面。なぜ、坂本が死ぬ直前、人魚による怪異が起きるのか。それは、子供時代に己の欲望に負けて岡田と一緒に人魚の肉を食べたからである。これがきっかけで坂本は怪異に魅入られた。人魚の血を飲んだ者、人魚の肉を食べた者は、みな怪異に見舞われる。食べたい、飲みたいという欲望に負けて、口にしてしまったら、もう人魚の怪異から逃れることはできない。

第一章と最終章以外は、岡田の手から渡った人魚の血と肉に関わった新選組の者たちの怪異談と、その彼らの最期について描かれる。新選組の人物が主人公のときは、坂本竜馬と異なり、必ずしも死ぬ直前に怪異が起きるわけではない。また怪異が目覚める期間は個人差がある設定にされていた。そして人によって起こる怪異も違う。ある者はゾンビであったり、ある者は吸血鬼だったりする。不老不死にも人によってさまざまな方法があるということが読み進めていくうちにわかるだろう。

最終章は土佐の人間、岡田が殺された後の物語である。この章の主人公は、他の章と異なる。信吾という土佐の子どもは獄門台に残されている岡田の首を目の前にして、何を知り、何を見たのか。最終章として、ふさわしい結末であったと読んでいて思った。

この物語は、登場人物たちの史実を忠実にたどりながら、それぞれ史実とは少し違う最期を迎えるところも本書の魅力だろう。そもそも、歴史小説に怪異を取り組むというところが一番大きな面白さであると感じる。また、どの怪異談も章のタイトルと関連付けられている。その為、タイトルの意味を考えながら読んでいくことも本書を読むときの楽しさが増すだろう。
この記事の中でご紹介した本
人魚ノ肉/文藝春秋
人魚ノ肉
著 者:木下 昌輝
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「人魚ノ肉」出版社のホームページはこちら
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