三浦しをん ロングインタビュー 愛し続ける、考え続ける 『愛なき世界』(中央公論新社)と『ののはな通信』(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月2日 / 新聞掲載日:2018年11月2日(第3263号)

三浦しをん ロングインタビュー
愛し続ける、考え続ける
『愛なき世界』(中央公論新社)と『ののはな通信』(KADOKAWA)

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ののはな通信(三浦 しをん)KADOKAWA
ののはな通信
三浦 しをん
KADOKAWA
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三浦しをん氏が今秋、『愛なき世界』(中央公論新社)を刊行した。T大の植物学研究室を舞台に、独特な魅力を放つ登場人物たちが、未知の世界へ読者を誘う。一途に生きる人々の真面目さゆえの面白さに、笑って泣けて希望が生まれる小説である。また、五月末には書簡体小説の『ののはな通信』(KADOKAWA)が刊行されている。昭和五九年から約三〇年にわたり、手紙・メールを通じて交流した二人の女性、ののとはなの半生を描く。その紡がれ続ける真摯な言葉に、知らぬ間に浸りきる体験を読者はするだろう。質感の異なる二冊について、三浦氏にお話を伺った。 (編集部)
第1回
未知の世界の扉を開く

三浦 しをん氏
――まず最新作の『愛なき世界』について伺います。この作品は、読売新聞の連載を経て、刊行されましたが、新聞連載ということで、執筆について意識したことはありましたか。
三浦 
 新聞連載は今回、初めてだったので、担当の記者の方に「新聞連載は毎日読んでくれる人もいるけれど、飛び飛びで気が向いたときに読む人もいる。だから、ストーリーの時系列が、行ったり来たりしない方がいい」とアドバイスをもらいました。頻繁に回想が入るような書き方は避けた方がいいと。それで、わりと一直線に時間が流れるように書きました。
舟を編む(三浦 しをん)光文社
舟を編む
三浦 しをん
光文社
  • オンライン書店で買う
――エッセイでは『ぐるぐる♡博物館』や『あやつられ文楽鑑賞』、小説では『舟を編む』を代表に、これまでも三浦さんは、未知の世界を知る楽しみを読者に伝えてくださっています。今回は植物学研究室が舞台となりましたが、そのきっかけを教えてください。
三浦 
 『舟を編む』の辞書作りをはじめ、これまでの作品のテーマは、もともと私自身が興味を持っていたことでした。でも今回は、本書の監修をしてくださった東大の塚谷裕一先生から、「『舟を編む』を読みましたが、辞書作りが小説になるのだったら、植物学も小説になるのではないかと思うんです。一度見学に来ませんか」と連絡をいただいたことがきっかけです。 ただ、私には理系の学問はよく分からないし、見学に行ったのにうまく小説にならなかったら申し訳ないので、数年間はご提案をそのままにしていました。数年を経て具体的に研究室の様子を伺ってみたら、確かに面白そうで、新聞連載も決まり、本格的に取材させてもらうことになりました。

――小説化への売り込みとは、面白い発想をなさる先生なんですね。松田教授のように、毎日黒スーツに白シャツの「殺し屋」ふうのいでたちでは……。
三浦 
 ないです(笑)。眉間に皺が寄ってもないし、陰鬱な感じの方でもないです。ただ、私生活が謎に包まれているところは、松田教授と同じですが。

――物語は、料理人修業中の藤丸陽太の視点から始まります。その後、博士課程の院生である本村紗英の視点から、生物科学の世界が描かれ、結びで再び藤丸の視点に戻ります。読者が藤丸と一緒にその扉を開いて、この世界に入って行けるという設計ですね。
三浦 
 私にとっても植物学研究室の取材は初めてづくしで、面白いのだけれど難しくもありました。初めて見る実験器具ばかりだし、研究の題材である遺伝子の順列組み合わせがわからないし、それ以前に大学内の助教、ポスドクなどの位置づけすら馴染みがない。門外漢の私が一つ一つ教えていただいたように、読者が話に入って行きやすいつくりにしたいと考えたんです。

それで本郷の洋食屋で働く藤丸を案内人に、研究の世界や、研究している人たちについて一つ一つ伝えようと。藤丸にも、私が取材現場で感じた新鮮な驚きや感動を味わわせて、藤丸を通して、読者の人もこの世界に引き込まれてくれたらいいなと。

――二章以降は、「葉っぱの制御システム」について、シロイヌナズナを対象に研究する、本村の視点で物語が進みます。その日常を描くために、どんな取材をされたのですか。
三浦 
 まずは実験室や栽培室、温室などを院生の方に案内してもらったのですが、それだけで、「これ、なんですか?」と尋ねずにはいられないような、珍しいものがたくさん目につくんです。取材はそういうものを見て回るところから始まりました。実際に顕微鏡で葉の細胞も見せてもらい、きれいで感激しました。

研究者が一日をどのように過ごしているのかも知りたくて、そうしたらある院生の方が、自分の起床から就寝までの一日を、二週間分ぐらい、詳細に記録して見せてくれたんです。

――さすが、研究者ですね。
三浦 
 記録をつけるのはお手の物です(笑)。でも、ただでさえ皆さん研究で忙しいのに、本当に親切にしてもらいました。

記録には、実験のために毎日しなければならない作業や、事務的なメールのやりとり、学内のセミナーの発表準備や学会の準備、中には疲れたから早目に帰るという日もあったりして。読むのが楽しかったですね。そこから、研究室の皆さんのリズムが分かってきたんです。

そして本村が具体的にどんな研究をし、何をどのように説き明かそうとしているかは、塚谷先生に考えていただき、その実験をするのにどんな手順が必要で、どんな実験器具を使うのか、院生の方に実演しながら教えてもらいました。
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この記事の中でご紹介した本
愛なき世界/中央公論新社
愛なき世界
著 者:三浦 しをん
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
ののはな通信/KADOKAWA
ののはな通信
著 者:三浦 しをん
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
舟を編む/光文社
舟を編む
著 者:三浦 しをん
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
ぐるぐる♡博物館/実業之日本社
ぐるぐる♡博物館
著 者:三浦 しをん
出版社:実業之日本社
以下のオンライン書店でご購入できます
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