本の虫の本 書評|林 哲夫(創元社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年11月3日 / 新聞掲載日:2018年11月2日(第3263号)

読者に漏れてしまう本 
5人の傾向・思考・偏向がわかる

本の虫の本
著 者:林 哲夫、能邨 陽子、荻原 魚雷、田中 美穂、岡崎 武志
出版社:創元社
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うんちく、という言葉は漢字だと「薀蓄」と書くが、この「薀」という文字はたぶん、私は今までの人生で一度も自分の手で書いたことはないような気がする。だって、見なきゃ書けない字だもの。調べてみると、「薀」も「蓄」も「たくわえる」という意味らしく(「蓄」のほうはわかりますね)、それだけ意味を強調している、ということになるだろうか。うんちくとは、これでもかこれでもかとたくわえられた何物か、なのである。

林哲夫、能邨陽子、荻原魚雷、田中美穂、岡崎武志と5人の著者の名前がカバーに並び、本好きならそれだけで「何事だ?」と身を乗り出す眺めだが、この5人は全員が「本の虫」として別の名前が付いている。で、その中で「まえがき」を書いていて、どうやら版元から最初に「こういう本を作りたい」と相談を持ちかけられたらしい林哲夫さんの「虫名」が「ハヤシウンチクサイムシ」だ。あえて野暮に書けば、これはきっと「薀蓄斎」であり、「ウンチ臭い」のダブルミーニングで、要するに「たくわえ」たものが納まりきらずに外に、読者に漏れてしまったような本なのだと思う(キタナイ喩えですみません)。

5人の著者が本に関するキーワードをいくつも挙げ、それぞれについて、うんちくといえばうんちく、コラムといえばコラム、エッセイといえばエッセイの体で書いている。その一つひとつが読み物として独立して味わえると同時に、なんとなく5人の傾向・志向・偏向がわかるのがまた愉しい。

最初のページから順番に読んでももちろんいいが、まずは8~9ページの見開きでズラリと一覧できる「もくじ」を見てほしい。思わずニヤリとしてしまうなじみの単語があるかと思えば、サッパリわからないものもあるだろう。ちなみに無学・無教養な私の場合、ハヤシウンチクサイムシが最初に書いている「犬耳する」(犬耳にはドッグイヤーとルビが振ってある)という言葉は知らなかったし、他にも「ショトン」「√2矩形」「ゲタとイキ」「マタイ効果」なんてまったくわからない。と思うと「青木まりこ現象」なんて、「あー、これは知らん人はまるで知らんだろうなあ。でも本屋好きなら知ってなくちゃね」と上から目線になりそうな言葉もある。そして、「小さな町にて」「本屋で一人きり」「野球場内にあった古本屋街」なんて、胸キュンな言葉たちも……。

もし自分だったら、何について書くだろうか。思案して最初に出てきたのが「スピン」だった。なぜだろう、「この本の中に、スピン、無ければいいな」と、まるで自分の手柄を守るかのように「もくじ」を見ると……。ああ、190ページでハヤシウンチクサイムシが書いている! ちくしょう、さすがです。そしてこれがまたむちゃくちゃ勉強になる内容なのだ。

でもね、林さん。オレだったら、オレが「スピン」について書くなら、現役の文庫本で唯一(のはず)、スピンを付けている新潮文庫について書くよ。いま逆風の新潮社だけど。

なんて悪あがきをブツブツつぶやきながら、この本を堪能いたしました。
この記事の中でご紹介した本
本の虫の本/創元社
本の虫の本
著 者:林 哲夫、能邨 陽子、荻原 魚雷、田中 美穂、岡崎 武志
出版社:創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「本の虫の本」出版社のホームページはこちら
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