プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年 書評|アン・ウォームズリー(紀伊國屋書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年11月4日 / 新聞掲載日:2016年11月4日(第3163号)

プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年 書評
ひとは変わることができる 与えることの大切さを学ぶ受刑者たち

プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
出版社:紀伊國屋書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
受刑者と書物。意外ともいえる取りあわせかもしれないが、読書と人間性について考えさせられる好著である。ここには著者が手伝うことになったある刑務所読書会の一年間がまとめられている。

読書会とは本について語りあう定期的な会合のことだ。この会の参加者は麻薬密売や恐喝や殺人などの咎で服役中の受刑者たち。初日、恐るおそる出かけていった著者は、いきなり衝撃をうける。体じゅう入れ墨だらけのかれらが語る言葉が、あまりに率直で鋭く、洞察に富み、知性にあふれていたからだ。

ジャンルも内容も毎回異なる読書をもとに、かれらはさまざまな主題について語りあう。差別、貧困、虐待やネグレクト、資本主義、戦争、自由、孤独、愛……。物語や人物にみずからの立場や人生を重ねあわせ、顧みる。意見の違いから時に対立もするが、そのプロセスをとおして、異なる見方を尊重するべきことを知り、強奪や支配ではなく与えることの大切さを学ぶ。

当初は刑務所生活の現実から一時逃避するために参加していたような受刑者たちは、やがてこんなことを言いはじめる。「ただおもしろいだけの小説にはもう興味がない。著者がなにを考えているか、どんな言葉を使っているか、どんな語り口で表現してるかを知りたいんだ」(一四七頁)。ひとは変わることができるのだし、じぶん自身にもそれができる。そのことを受刑者たちはみずから学びとってゆく。

変化の流れは「塀の外」へも波及する。トロントの女性読書会が、刑務所読書会と同じ本を読みはじめるのだ。手紙を介した両者の交流は、老婦人たちの視野をひろげ、受刑者たちの心にちいさな明かりを灯す。
著者自身もまた同じだ。本書のもうひとつの筋は、過去に強盗事件の被害にあった著者が、受刑者との触れあいのなかで、長らく悩まされていたそのトラウマを乗り越えてゆくプロセスにある。著者を励ますのは「人の善を信じれば、相手は必ず応えてくれるものだよ」という父の言葉だ。誰かに信じてもらえるからこそ、ひとは誰かを信じることができる。

人間性をめぐるこうした認識は、折々に差しはさまれるオンタリオ湖周辺、なかでもアマースト島の風景描写と響きあう。グーグルマップで見ると、島は刑務所のほとんど目の前に浮かんでいる。監視された過酷な「内」と、豊かにひろがる「外」。
もちろん何もかもうまくゆくわけではない。しかしそれでも書物は人生をより深く豊かにしてくれるかけがえのない友人である、という信念が本書を貫いている。それは会の主宰者キャロルの信念でもある。善意の塊で、抜群の行動力と教育的な情熱を兼ね備えた彼女は、こう言う。「読書の楽しみの半分は、ひとりですること。つまり本を読むことよ。[中略]あとの半分は、みんなで集まって話しあうこと。それによって内容を深く理解できるようになる。本が友だちになるの」(一六〇頁)。
だとすれば――とぼくは考える。それは冊子の書物だからこそ可能なことなのか。たとえば電子書籍や映画だったらどうなのだろうか、と。(向井和美訳)
この記事の中でご紹介した本
プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年/紀伊國屋書店
プリズン・ブック・クラブ  コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
著 者:アン・ウォームズリー
出版社:紀伊國屋書店
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
長谷川 一 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >