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”Letter to my son"
更新日:2018年11月13日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

Letter to my son(16)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI

1999年の大晦日。僕らはクラブを抜け出し、1ブロック先にあるいつものデリにいる。2Fのダイニングエリア。照明は消されていて、奥にある天井近くのテレビと、窓際の店名のネオンの光だけが空間を照らしている。真夜中の高層ビル群の狭間で、エメラルド色の光をぼんやり放ちながら宙に浮かんでいる小さな水槽、その中をダイエットペプシを飲みながらゆったり仰向けに泳ぐふたり。

「わたしさ、時々、思い浮かぶ光景みたいなのがあって。郊外の一軒家で、手入れされすぎてない庭にサルスベリの木があって、桃色の花が咲いてて、雑種なんだけどゴールデンレトリバーみたいな犬がそばにいて、その頃はもう彫刻は作ってなくて、庭を眺めながら絵を描いてて。そのわたしを彼が見つめていて」。「いい光景だね」。「ただの自分の願望っていうか夢想かもしれないけど」。「でもさ、今だって、その未来につながってるのかもね」。「そうだといいな」。「庭でその犬と一緒に子供も遊んでそう」。「、、、うん」。彼女は微笑みながら窓に寄りかかり、うっすらくもったガラス越しに遠くを眺めている。

ヨーロッパの一部の国では既にパートナーシップ法が施行されている。同性婚についての審議も進んでるみたいだし、もしかしたら、ほんの少し先の未来で、彼女も僕も、それぞれ結婚したり子育てしたり、お互いの家族とセントラルパークを一緒に散歩してる未来もあるのかも。でも今はあまりうまく想像できない。

「そういえば、この前言ってた子とはどうなったの?」「え? もう未来の話終わり?!」「うん。“今”の話、しよ」。気まぐれな彼女に呆れながらも僕は話し出す。

無音のテレビには、眩しい照明とともに紙吹雪が舞うタイムズスクエアが映し出され、遠くからは波紋のように花火の音が重なり響き伝わってくる。恋の話に浮かれてる僕らをよそに、たった今、世界はあらたな1000年に突入したらしい。
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