平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録 作家の思考、その背中 『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月9日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録
作家の思考、その背中
『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って

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平野 啓一郎
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ある男(平野 啓一郎)文藝春秋
ある男
平野 啓一郎
文藝春秋
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作家生活二〇年の平野啓一郎氏が、批評・エッセイ集『考える葦』(キノブックス)の刊行を記念したトークイベントを十月二十二日、東京都千代田区の神保町で開催した。
お相手は、ライターの武田砂鉄氏。今秋刊行の『ある男』(文藝春秋)は、『文學界』で「平野啓一郎の世界」と題する特集が組まれ、話題となっている。
対談では、「平野文学が内包する社会性」をテーマに、音楽やWEBから、書くことについて考えたり、読者と作家との関係性や、平野氏が提唱する「分人主義」についてなど、縦横に語られた。
その内容を載録させていただいた。(編集部)
第1回
作家生活二〇年、現代を舞台に書くための取材

武田 砂鉄氏
武田 
 今回、平野さんは、批評・エッセイ集『考える葦』と小説『ある男』を、同時期に刊行されました。このところ、平野さんが小説を出されるのは、数年に一度ですよね。
平野 
 最近数えてみたら、小説は全十四作品で、二十年書いてきたから、単純に割ると一年強で一作のペースになります。
武田 
 いまの日本の出版界では、スローペースと言えるかもしれませんね。
平野 
 相当働いているつもりなんですが(笑)。いわゆる「純文学作家」の人たちは、そのぐらいのペースかな、という気もします。
武田 
 平野さんの小説作品は、長いものも多いですからね。
平野 
 初期の『葬送』などは、普通の本の十冊分ぐらいあると思う。僕としては、もっと刊行の間隔をあけたいですよ。カズオ・イシグロみたいに、七年ぶりの長編小説とか。一冊出すと、一年ワールドツアーをやらなきゃいけない、みたいな愚痴を言ってみたい(笑)。
武田 
 日本は、出版も音楽業界も回転が速い。少し前、人気ミュージシャンがしばらく活動休止する、とのニュースが出た。で、どれくらい休むのかと言えば、たった六ヶ月だった。
平野 
 宣言されなければ、気が付かないですね(笑)。振り返ると、七十年代のロック・バンドは、レッド・ツェッペリンなども、活動期間が思いのほか短いんです。
武田 
 ザ・ビートルズも然り、確かにそうですね。
平野 
 毎年アルバムを出して、人気が確立するまで馬車馬のように働き、十年足らずで解散したりする……。だからこそ、時代の音になるのかもしれませんが。
武田 
 現役のヘヴィメタル・バンドとして最も知られているメタリカは、今、二週間ワールドツアーをやったら、必ず二週間家に帰るスケジューリングでツアーをしています。それがバンド内のメンタルを整える最善の方法だと気づいたらしい。当然、お金がかかる。クルーや機材を全てリセットし、その都度、一から動かすわけですから。
平野 
 昔は、「ブラック」ツアーだったでしょうね。ロックミュージシャンたちは、何ヶ月も家に帰れなくて、家庭が崩壊したり、精神的にまいったり。

マルタ・アルゲリッチという、クラシックの世界的なピアニストがいますが、彼女も若いときから、二週間以上のツアーは出ないと決めていたらしい。根拠は不確かだけど、二週間が一つの目安かもしれませんね。僕も、海外に文学シンポジウムなどで出かけることがありますが、やはりマックス二週間かな。
武田 
 平野さんは小説を書くにあたって、かなり取材をされるそうですね。
平野 
 するようになりました。
武田 
 どの作品の頃からなんですか。
平野 
 本格的に現代を舞台に書きだした、『決壊』(二〇〇八年刊)の頃からです。取材に行ってみると、皆さん意外なほどよく話してくれますね。
武田 
 多くの人が、話したいけれど話せなかった、胸に溜め込んでいる物事があるんでしょうね。
平野 
 『決壊』には、警察批判やマスコミ批判が含まれているのですが、それらは全て関係者から聴いた話です。でも小説にして出た後に、そのことに対する批判がほとんどなかった。それは、当事者ほど、よく分かる内容だったからではないか、と思うんです。
武田 
 今回の『ある男』にも、社会的な問題が様々な形で盛り込まれています。戸籍の問題、ヘイトスピーチの問題など、そして前作の『マチネの終わりに』では、PTSDなどなど。

ジャーナリストたちが、ある出来事や人物を取材するのは、真相を追い求めるのが主たる目的ですが、平野さんの取材は、小説に直接的に反映されるわけではないですよね。
平野 
 そうですね。取材ではディテールが描写の参考になることもありますが、それよりも、小説全体のディレクションが明確になる気がします。一応、本を読んだり、下調べをして取材に臨みますが、構想段階で注目していたことが、まったく的外れだった、ということがあります。話を聞くことで、書くべきことがカクめてくるんです。

『ある男』で書いた林業は、別の企画で取材したときから、社会の中でこの仕事のおかれた位置や、そこから見えた世の中の仕組みが心に残っていたんです。取材は小説の世界を作る上で、重要な要素です。
武田 
 ジャーナリストとは角度が違うけれど、やはり、この「現代」を伝えるために必要なんですね。
平野 
 そのときに、なるべく「そもそも論」を質問するのが肝心だと思うんです。物を分かったような聞き方ではなくて、「アホな質問ですが、そもそも、何でこうなんですか」と。すると「いやぁそれがね、実は大問題なんですよ」みたいな話に繋がることが多い。
武田 
 「まあ聞いてくれよ」と身を乗り出してくる。「オレ、話の引き出し方が、うまくなったな」と思ったりしますか(笑)。
平野 
 一時間に三回は笑いとらないと、インタビュアーとして失格じゃないか、とか、ヘンなことを考え始めますね(笑)。
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この記事の中でご紹介した本
透明な迷宮/
透明な迷宮
著 者:平野 啓一郎
出版社:
以下のオンライン書店でご購入できます
考える葦/キノブックス
考える葦
著 者:平野 啓一郎
出版社:キノブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
ある男/文藝春秋
ある男
著 者:平野 啓一郎
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
マチネの終わりに/毎日新聞出版
マチネの終わりに
著 者:平野 啓一郎
出版社:毎日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「マチネの終わりに」出版社のホームページはこちら
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