平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録 作家の思考、その背中 『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月9日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録
作家の思考、その背中
『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って

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第3回
洗練と勢い、プログレかポップか

武田 砂鉄氏
武田 
 最初の荒い演奏が最もよかった、という具合に、最初のテキストを採用することもありますか。
平野 
 それは大きな問題で、『葬送』で、画家のドラクロアについて書くために彼の日記を読みましたが、そこにもその葛藤が綴られていました。粗いタッチの下書きが、非常に生き生きとしている。でもそれは未完成なので、完成させていく必要がある。完成度が上がると、最初の生き生きとした感じは失われる。いかに洗練させ、完成に近づけつつ、生き生きした雰囲気を残すか、と。

同じ課題は小説にもあります。最初に書いたものには勢いがあるけれど、やはりそのままでは人が読むものにはなっていない。でも完成に向かうと、洗練される反面、勢いが落ちる。

ジャズやロックでは、それでも勢いを残したものの方がいい、ということがあるけれど、小説の場合はやっぱりそこから完成に向けて、推敲する必要があると思っています。推敲しつつ生き生きとした感じを残すには、技術的な側面が影響しますよね。
武田 
 自分は、Aの話とBの話を接合せず分離したまま、一つのテキストとして提示することがあります。ある音楽雑誌の編集長に、「君の文章は、プログレッシブ・ロックみたいだね」と言われたことがあるんです。

プログレッシブ・ロック、例えばキング・クリムゾンならば、激しい展開が続くと思ったら、いきなり途切れ、途端に静かなメロディーが流れ始めたりする。でも不思議と、その全体で一つの音楽になっている。これがAとBが滑らかに繋がれてしまうと、彼ららしさは失われてしまう。自分の文章は分かりにくいと言われることもありますが、そのときは「俺はプログレやってるんだ」と、肯定的に捉えるようにしています(笑)。

平野さんの小説は、登場人物の感情描写が緻密だと感じる読者が多いと思います。平野さんの文章には、断絶はないですよね。
平野 
 その話の前に、プログレの喩えで言うと、「最近の平野さんは難解な『日蝕』や『葬送』などの超大作の頃に比べて、随分読みやすくなりましたね。イエスが「ロンリー・ハート」を出すみたいなものですか?」と言われたことがあります。
武田 
 イエスというプログレバンドが、八〇年代に、ポップ路線に変わった時期があったんですよね。
平野 
 面白い話だと思ったんですが、今日の皆さんの反応は微妙ですね……(笑)。
武田 
 プログレからポップへって、本人としては、あまり受け入れたくない評価ではないですか。
平野 
 でも「ロンリー・ハート」もいい曲じゃないですか。と、大人になると思う(笑)。

音楽の話で引っ張りますが、曲を作る上ではライブの感覚が、相当影響すると思うんです。さっきの話のメタリカや、あと、アイアン・メイデンとかも、早い曲調が続いたところで、突然テンポがゆっくりになったりしますよね。あれは、ずっと頭をふっているのは辛いから、休憩がいるんですよ。プログレのギクシャクした曲調の変化も、ライブ会場だと、高揚したり弛緩したり、肉体に直接響くのだと思う。

それは差こそあれ、読み物にも必要だと思っています。多少ギクシャクしても、同じトーンで書き続けられるより、テンポが変わった方が読みやすいとか、そういう効果は考えます。一本調子が続いたら、場面を変えようというふうに。 

ただ登場人物の心理の変化、この人はなぜこの場面でこう思ったのか、というようなところは、読者にある種の納得が生まれるように、丁寧に書こうとしています。
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この記事の中でご紹介した本
透明な迷宮/
透明な迷宮
著 者:平野 啓一郎
出版社:
以下のオンライン書店でご購入できます
考える葦/キノブックス
考える葦
著 者:平野 啓一郎
出版社:キノブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
ある男/文藝春秋
ある男
著 者:平野 啓一郎
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
マチネの終わりに/毎日新聞出版
マチネの終わりに
著 者:平野 啓一郎
出版社:毎日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「マチネの終わりに」出版社のホームページはこちら
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