平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録 作家の思考、その背中 『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月9日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

平野啓一郎×武田砂鉄 対談載録
作家の思考、その背中
『考える葦』(キノブックス)と『ある男』(文藝春秋)を巡って

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第4回
「平野啓一郎らしさ」、現在以降未来の読者へ

平野 啓一郎氏
武田 
 小説を書いていく中で「平野啓一郎らしさ」みたいなものと、平野啓一郎が闘う場面はあるのでしょうか。AIが書いた小説が星新一賞の一次審査を通過した、というニュースがありましたが、平野啓一郎が使いそうな言葉を、人工知能が予測することは、これから可能になっていくのかもしれません。

もう一度だけ音楽の話をすると(笑)、メタリカは、曲作りをする時に、まずギターのリフを作り、それをハードディスクに保存しておく。新作を作る段階になって、そのハードディスクからリフを取り出し、繋ぎあわせながら、新しい曲として構築できるかどうかを模索するという。

AIは、メタリカっぽいリフや、平野啓一郎っぽいフレーズを作れるようになるかもしれませんが、その接続は、メタリカにしかできないし、平野啓一郎にしかできないのではないかと思うのです。
平野 
 いつ頃の未来を念頭におくかにもよると思いますが、数年以内なら無理でも、何百年先には、接続さえ簡単にできるようになっているかもしれませんよね。僕自身は、「分人主義」とか言っているぐらいですから、あまり自分らしさみたいなことは重要視していなくて、むしろコロコロ作風を変えながら書いているつもりです。

それでもやはり、これまで書いてきた小説には、漠然と「平野啓一郎の小説」という感じは、あると思います。それが接続なのか、テーマとして継続しつつ発展しているアイデンティティの問題なのか、言葉遣い、文章のリズム、あるいは文体か。自分ではうまく分析できないですが、それらが総合的に、作家像といったものを形作っていくのでしょう。

ただ、何を書くかと同時に、何を書かないかも大事なのではないか、と思っているんです。書かないことの選択の方が、もしかすると、作家のアイデンティティの上では、重要なのかもしれないと。
武田 
 『文學界』十月号で『ある男』を中心とした平野さん特集が組まれており、作家の小川洋子さんと対談されています。その中で平野さんが「今の読者は、長い導入部分をなかなか楽しめなくなってきている」、あるいは「未来の読者が今よりももっと象徴的な、ほのめかしみたいなものをよく読み取れるようになっていくとは思えない」と話されています。「象徴的な場面にもっと説明的なものをギューッと圧縮していくのが小説」ともある。文章を書くとき、読者をどこまで意識するものですか。私は、伝わらない人がいたら、それはそれでしょうがない、と思ってしまうのですが。
平野 
 僕の小説を読んでくれる読者は、現在以降未来にしかいないんですよね。であれば、現在以降の読者のことを考えなければいけないと思うんです。読めない人がいてもいいじゃないか、と言うときに、無意識に過去の読者をイメージしている可能性があって。
武田 
 あ、危険ですね。
平野 
 文学というもののコノテーションが強靭だった時代、ある文学共同体の中で、知識や言葉の含意するものを、常識として共有できていた時代の読者を、無意識に念頭に置いている可能性がある。それは、僕はまずいと思うんです。

自分の小説は、現代という時代について書いていないといけないと思っていて、そのときに、現代の読者について考えることが、現代について考えることに、過不足なく合致するような問いの立て方をしなければいけないと。

読者について考えるというと、マーケティングのことと思われがちですが。
武田 
 このテーマなら、興味を持つ人がたくさんいて売れますよ、みたいな。
平野 
 あとは、読者のためにもっと簡単な表現にしましょうとか。そういうことではなくて、今という時代に生きている一人の読者が、なぜほかでもなく小説を読みたいと思ったのか。その人たちが生きているのはどういう世界なのか。そういうことを真面目に考えることが、現代という時代の考察に直結するような、物の考え方をしなければいけないと思うんです。

現代の読者が、長い導入を読み切れなくなっていることにはきっと理由があって、それは時代の流れの中で、全ての人に起こっている変化であり、当然僕にも影響があることだと思っています。
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この記事の中でご紹介した本
透明な迷宮/
透明な迷宮
著 者:平野 啓一郎
出版社:
以下のオンライン書店でご購入できます
考える葦/キノブックス
考える葦
著 者:平野 啓一郎
出版社:キノブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
ある男/文藝春秋
ある男
著 者:平野 啓一郎
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
マチネの終わりに/毎日新聞出版
マチネの終わりに
著 者:平野 啓一郎
出版社:毎日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「マチネの終わりに」出版社のホームページはこちら
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