人間さまお断り 書評|ジェリー・カブラン(三省堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2016年11月4日

起こりつつある大転換 人工知能とその社会的影響について説く

人間さまお断り
出版社:三省堂
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今年3月、グーグル傘下のディープマインド社が開発した「アルファ碁」が、世界のトップ棋士に勝利して以来、人工知能への社会的関心が急速に高まっている。本書は、シリコンバレーでいくつもの起業を成功させてきた著者が、人工知能とその社会的影響について説いたものである。

著者は人工知能を二つに分けて整理する。
ひとつは、膨大なデータから独自のパターンを見出し、深い洞察に至る「合成頭脳」。かつてのコンピュータは、人間の定めた手続きを処理する機械にすぎなかった。しかし、処理性能の圧倒的な向上により、プログラミングの方法自体が変化した。現代の合成頭脳では、それを作った人間にも、機械自身にも、どうやって問題を解いているかを説明できない――アルファ碁の手を評して「よくわからないが、強い」と言う他なかった解説者のように。

もうひとつは、感覚器で周囲の状況を察知し、思考し、動作する「労働機械」。感覚器と脳と手が一箇所にあれば「ロボット」だが、別々でも全く問題ない。たとえば感覚器は人々の携帯電話の中にあり、集めたデータを外国のサーバに送って分析し、ロボットアームに指示を出すといったように。これまでの自動化では、単一の作業を行う機械に合わせて、環境を整えてやる必要があった。現代の労働機械は、環境に合わせて自ら動きを調整し、一台で様々な用事をこなす。

日本語版解説の松尾豊氏の言葉を借りると、合成頭脳はホワイトカラーの仕事を、労働機械はブルーカラーの仕事を代替する。医療や法律、あるいは農業や建設業など、高度な知識や複雑な環境変化への対応が求められるため自動化困難とされてきた分野でこそ、大きな変革が予想される。むしろ「人間さまお断り」の職場が増えてゆく可能性が高い。

人間がきつい労働から解放されるのは、すばらしいことだ。しかし、そこから得られる富を公平に分配するしくみがないと、悲惨なことになる。労働者は機械に職を奪われ、資本家は機械を所有してますます富む。一九七〇年代以降、米国でも日本でも拡がりつつある経済格差は、さらにひどくなる。新しい仕事が生まれるにせよ、新しい技能はすぐには習得できない。過度の経済格差は好ましくないと考える著者は、経済成長の果実のより公平な分配を求めるとともに、労働者の技能習得や、法人による富の広い分配を支援する制度を提案している。

人間と機械の共生には、新しい法制度も必要となる。機械が人間と同じ土俵に立つことを許すと、人間にとって生きにくい世の中になってしまう。合成頭脳は責任能力を持てるか、罪を犯した合成頭脳にはどのような罰が有効か、さらに、人間が機械に寄生する未来像等々、縦横無尽に語られる。
ユーモアあふれる文章のひとつひとつに、著者の技術への深い理解による裏打ちがある。豊かなエピソードを楽しみながら、現に起こりつつある大転換を肌で感じることができる。(安原和見訳)
この記事の中でご紹介した本
人間さまお断り/三省堂
人間さまお断り
著 者:ジェリー・カブラン
出版社:三省堂
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年11月4日 新聞掲載(第3163号)
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