プロパガンダ・ポスターにみる 日本の戦争   135枚が映し出す真実 書評| 田島 奈都子(勉誠出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年11月4日 / 新聞掲載日:2016年11月4日(第3163号)

戦時中のプロパガンダの 実態を伝える貴重な資料

プロパガンダ・ポスターにみる 日本の戦争   135枚が映し出す真実
出版社:勉誠出版
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1995年、長野県阿智村にあるH氏邸の土蔵から長らく門外不出だった大量の古いポスターが発見された。戦時中に村長を務めていたH氏の祖父が「いつか大事に使えよ」と密かに子孫に託したというこれらのポスターは、国威発揚や戦意高揚などを目的に制作されたもので、当時のプロパガンダの実態を伝える貴重な資料でもある。本書にはその詳細な調査結果が記録されている。

現存するポスターは計135枚、制作時期は1931年の満州事変勃発から1945年の終戦までの15年にまたがっている。著者はこれらのポスターを「募兵」「戦時体制の強化」「労働力の確保」「女性と子供」「戦費調達のための貯蓄」「節約と供出」「戦時期の長野県」「傷兵・遺家族」の8つのカテゴリーに分類し、一点一点に丁寧な解説を施している。

事前に私は、戦時中のポスターなら募兵や戦時体制の強化を掲げた作品が圧倒的に多いのではないかと予測していた。しかし実際に本書を繙いてみると、貯蓄や節約を訴えた作品や、女性と子供の役割を強調した作品が予想外に多かったのが印象的だった。「うちてしやまん」に象徴されるスローガンは勇ましくも空疎であり、なかには将来の航空兵を“生産"するために優生学的な見地からの結婚を奨励する荒唐無稽なものもあった。これらのポスターに限らず、戦時下で展開された自画自賛型のプロパガンダの大半は妄言に過ぎず、今となっては失笑を禁じ得ない。そのトンデモぶりは、例えば早川タダノリの『日本スゴイのディストピア』(青弓社)などに詳しい。他方、精神論を強調したい場合には日本画家が、写実的な描写を重視する場合には洋画家が起用される傾向が強かったことや、日の丸、富士山、桜、金鵄など、人気のある図案は3つのグループに大別することができるなど、デザインに関しての指摘も興味深かった。

戦時中のプロパガンダと聞いて、「FRONT」や「NIPPON」のようなグラフ誌を思い起こす読者も多いだろう。だが、対外広報を目的とした両誌が日本のデザイン史に確固たる足跡を残しているのとは対照的に、本書に採録されているような対内広報の宣材はほとんど現存していない。使用済みのポスターが包装紙などに転用されたのもその一因だが、巻末のコラムで紹介されている焼却を指示した終戦直後の公文書は、それまで国民を戦争に動員する役割を担っていたポスターが終戦と同時に厄介者扱いされるようになり、またデザインを担当した図案家たちも一様に口を噤んでしまった理由を明らかにしている。東アジア情勢がにわかに緊張感を増す昨今、奇跡的に残されていた135枚のプロパガンダ・ポスターの存在は、臭い物に蓋をするばかりではまた同じ間違いを繰り返すことになると諭しているようにも思われる。
この記事の中でご紹介した本
プロパガンダ・ポスターにみる 日本の戦争   135枚が映し出す真実/勉誠出版
プロパガンダ・ポスターにみる 日本の戦争   135枚が映し出す真実
著 者: 田島 奈都子
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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