新復興論 書評|小松 理虔(株式会社ゲンロン)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年11月10日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

「現場」は誰のものか 
分断されたローカル内ローカルを未来へと開く

新復興論
著 者:小松 理虔
出版社:株式会社ゲンロン
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「現場」は誰のものなのだろうか。

本書は東日本大震災後の福島を中心に、復興において「当事者」が限定されることの問題点を鋭く突く。

そもそも僕のような関東在住者にとって、福島は「福島」という一個の「ローカル」に見えていることが多いだろう。しかし著者の小松は福島を「大きなローカル」として、そのなかでも震災後の状況に差があることを示してゆく。一つの「市」のなかでも地区ごとに状況は異なり、さらに言えば各人それぞれでも被災の状況は異なっている。

ローカル内ローカルの差異は、地区同士での小さな「ささくれ」を作り出す。例えば、他の郡からの避難民との関係や、賠償金が生み出す微妙な感情。これらは裁判沙汰にならないためにメディアに取り上げられにくいが、徐々に積み重なって被災者の心に重くのしかかってくる。小松はそのような事例を掬い取って、今回の福島だけでなく今後の災害でも起こり得る現象であると警鐘を鳴らす。

科学技術社会論という研究分野では、しばしば「現場知」や「ローカルナレッジ」が重要であるという議論がなされるが、本書は現場知の新しい在り方を実践した好例であるとも言える。現場にいる人間が知り得る知識は、時として学術的な「専門知」をも上回る。小松は現場知と専門知を交流させる様々な活動を試みており、さらにそれを外部に開くところまで実現させている。

小松はいわき市小名浜生まれの「ローカルアクティビスト」。震災後、当時勤務していたいわき市内のかまぼこメーカーに商品の安全性についての問い合わせが来たことから、自分で海の土や魚の放射線量を測定して公表するプロジェクト「うみラボ」を始めた。この取り組みは最初こそうまくいかなかったものの、徐々に様々な専門家と連携しつつ、正確性や発信力を高めてゆくことに成功した。まさに「市民科学を牽引する活動家」の理想像を体現した人物である。こういうと固く激しいイメージを持たれる方もいるかもしれないが、小松はあくまでプロジェクトをやわらかく進め、結果的に相互理解が進むよう、外の人と一緒に楽しめる企画を行うというスタンスを貫く。

本書で繰り返し説かれるのは、異なる他者の選択を尊重できる社会を目指すことの重要性だ。震災後、何かを言えば誰かから非難され、様々な議論が二項対立に陥って互いを否定しあう状況が蔓延した。自説のみを正統とする「閉じた言論環境」のぶつかり合いのなかで言葉を発するのをためらってしまった人も多いだろう。そこには「大きな主語」の問題がある。「当事者」「被災者」「福島」といった言葉を主語にすることで、一つの意見に過ぎない呟きでもローカルを代表するものとして扱われてしまう。また逆に相手を「当事者でない」と扱うことで、議論から排除することも可能になってしまう。

「すべての人が当事者だと捉えていかなければならない」(本書二〇六頁)と小松は書く。この「すべて」は空間的な広がりだけでなく時間的な広がりも考慮された「すべて」であり、小松はこれから生まれる人間にも当事者性を見出す。遠い場所、遠い未来で、誰かが自分を当事者だと考えてくれれば、この「課題先進地区」での教訓は生かされるかもしれない。あるいはそれは巡り巡って、その時の福島にとっても有益なものをもたらすかもしれない。

「当事者」は様々なジレンマに引き裂かれている。若者を取り込んでまちづくりをしたいベテランと、高齢者が主導することで自由に活動できない若者。根拠はないが生まれてしまう不安に苦しむひとと、科学的根拠のない意見を封殺しようと苛立つひと。被災者という立場から抜け出すために復興をすることと、復興が被災者という立場を固定してしまうこと。そんなジレンマに唯一の答えなどない。それゆえ逆に、現場から一歩離れた批評的視点が重要になる。本書はそれを訴えると同時に見事に実践してみせた、まさに「ローカルアクティビスト」ならではの本であった。
この記事の中でご紹介した本
新復興論/株式会社ゲンロン
新復興論
著 者:小松 理虔
出版社:株式会社ゲンロン
以下のオンライン書店でご購入できます
「新復興論」出版社のホームページはこちら
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