#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか 書評|キャス・サンスティーン(勁草書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年11月10日 / 新聞掲載日:2018年11月9日(第3264号)

#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか 書評
#リパブリックの悪夢
ソーシャルメディアによるデモクラシーの包囲

#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか
著 者:キャス・サンスティーン
翻訳者:伊達 尚美
出版社:勁草書房 
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グーグル、フェイスブック、ツィッターなどのソーシャルメディアは、アルゴリズム機能により利用者の検索履歴を学び、その人の好みに合う情報を見つけ、教えてくれる。人々は今日、「デイリー・ミー(日刊・私)」と著者が呼ぶ「インフォメーションコクーン(情報の繭)」に包み込まれ、「私的な消費者」として生きている。こうした「自己隔離」は「民主主義の理念を傷つける」と、著者は危惧する。

人とのつながりでも、ソーシャルメディアを介して「同類が群れやすくなる」ため、社会の「断片化」は止まらない。「ハッシュタグ(#)」は、「似た者同士」の「共同体」や「集団分極化」を作り出す「エンジン」だ。ヘイトスピーチが横行する。分極化の果てに、「爆弾製造」や「テロ」を煽る「過激思想」も生じる。「イスラム国」によるウェブの駆使は記憶に新しい。最新情報技術に包囲された「#リパブリック」は「悪夢となりうる」。

著者は「まともに機能する民主主義国」の要件として、「セレンディピティ(偶然の出会い)」と「共有される経験」を挙げ、これらの機会を確保する方法として、「パブリックフォーラム(公共空間)論」と「熟議民主主義」に訴える。公共空間の概念を情報技術環境に「移し替え」、熟議を実現する「ネットワーク化された公共圏」として、#リパブリックを悪夢から救い出すというのである。

この企てはうまくいくだろうか。著者は、「公共の場での議論は政治的義務」で、最大の脅威は「人々の無気力」とするルイス・ブランダイス(米連邦最高裁裁判官)の言葉を何度も引き、「政治的主権」と「消費者主権」の混同は「大きな間違い」だと主張する。公益に重きを置く共和国の理念に照らせば、確かにその通りである。が、“私的な消費者”には「理想的な市民の務め」など他人事で、彼らは無気力なままだろう。例えば著者は、予期せぬ情報に触れる機会を増やすため、フェイスブックの画面上に「セレンディピティボタン」をつけることを提案するが、はたしてどれほどの人がクリックするだろうか。クリックを義務化しても、次いでログアウトボタンをクリックするだけにならないか。

不可解な点は他にもある。著者は、「問題のうち最も重要なものは大企業から生じて」いると認識しながら、「ミルトン・フリードマン」に代表される「シカゴ学派はだいたいにおいて正しく」、「深い愛着がある」と言う。「政治と民主主義」については「多くのことが見落とされている」と学派から距離を取るものの、企業のマネーゲームやブラック化を促し、市民を消費者に変え、格差と分断を社会に広げ、負け組を反知性的ポピュリズムや排外的極右などの“過激思想”に走らせた経済理論を支持するなら、アクセルとブレーキを同時に踏むことにしかならない。熟議民主主義の主唱者として本書でも引用される「ユルゲン・ハーバーマス」は、新自由主義を擁護したか。

#リパブリックが悪夢に陥るかどうかは、「自由と民主主義を熱望する人々の思いに依存」する。著者いわく、「多くの人」は「市民の美徳を身につけて」いて、「異なる意見にも喜んで耳を傾ける」。ならば、そもそも問題は生じなかったはずである。本書では各種社会調査が頻繁に参照されるが、有徳な市民がどれほど多いのか、統計数字は何も示されない。

かつてプラトンは、民衆を「巨大で力の強い動物」に、彼らが生きる民主政体を「ハデス(冥界)」に喩えた(『リパブリック』)。この見方が正しいことを、現実は示している。洞窟ならぬ繭の影像に囚われた猛獣に、熟議はできない。手遅れになって「民衆はやっと思い知らされることでしょう」。#リパブリックの悪夢は、どのみち現実となる定めかもしれない。著者の願いとはズレるが、そんな思いもよぎる警世の書と受け止めた。(伊達尚美訳)
この記事の中でご紹介した本
#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか/勁草書房 
#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか
著 者:キャス・サンスティーン
翻訳者:伊達 尚美
出版社:勁草書房 
以下のオンライン書店でご購入できます
「#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか」出版社のホームページはこちら
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