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”Letter to my son"
更新日:2018年11月20日 / 新聞掲載日:2018年11月16日(第3265号)

Letter to my son(17)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI

“パシャン”左手に持ったケーブルレリーズで1枚目のシャッターを切る。ヨレヨレのTシャツに黒いジャケット姿で、予想外の成り行きで初めてセルフポートレイトを撮影している。撮る時よりも絓メラから離れているのに、シャッター音がこんなに大きく響いてくるなんて。少しビクついてしまった自分に苦笑いする。気を取り直して2枚目を撮ろうとした時、ふと、さっきの煙草のにおいが鼻腔に蘇った。僕はポケットから煙草を取り出し、火をつけゆっくり吸い始める。絶対、彼だと思ったんだけどな。サングラス越しに僕を見つめているように感じた、その表情を思い返しながら2枚目のシャッターを切る。空想の中で、いつの間にか彼の顔からサングラスが消え、髪の色が少し濃くなり、もともと今日撮影に来てくれることになっていた“彼”の面影に揺れ重なっていく。“ごめん。二度寝しちゃって”後髪をいじりながら少しおどけて謝る彼を見つめながら、僕は3枚目のシャッターを切る。

待ち合わせの5分前。5番街の西12と13丁目の間、スタジオが入っている校舎ビルの前。撮影を快諾してくれた彼を待つ。横断歩道の向こうから、黄色いアロハシャツにサングラスをした青年が、僕に合図するように煙草を持った手を少し挙げ、走ってこちらに向かって来る。でも立ち止まることなく、僕の真横をそのまま通り過ぎていく。その後も30分ほど待っていたけど彼は来なかった。僕は諦めスタジオに戻る。テーブルに並べた、僕と詩人のお気に入りのマフィンと湯気のなくなった珈琲を見つめながら溜息をもらす。

「モデルになってもらえない?」ある日、僕がそう聞くと、詩人は少し考えてから言った。「興味はあるけど、それよりも君が撮った彼の写真を見てみたい」。
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