連載 『ゲームの規則』/言葉と影 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 82|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2018年11月20日 / 新聞掲載日:2018年11月16日(第3265号)

連載 『ゲームの規則』/言葉と影 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 82

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先週号掲載の『勝手にしやがれ』のロケ地(現在)
JD 
 例えばまずまずの出来の作品があるとします。芸術であるとも偉大な作品であるとも言い難いものです。そのような作品には、いくつかの瞬間があり、その積み重ねで映画が成り立っています。シーンに強弱をつけることによって、観客の気を惹きます。偉大な映画作品には、瞬間というものは存在しません。ルノワールの映画に、瞬間はありますか。例えば『ゲームの規則』から、どの瞬間を選び取りますか。
HK 
 ……全てでしょうか。
JD 
 記憶に残る瞬間として狩りのシーンを挙げることもできます。しかし、それだけでは十分ではありません。
HK 
 飛行士の到着シーンが記憶に残っています。
JD 
 それは映画の始まりのシーンですから、当然記憶に残るシーンです。ところで、映画全体の始まりのショットを覚えていますか。
HK 
 飛行士の到着とその周りで騒ぐ人々ではなかったですか。それ以上は、覚えていません。
JD 
 その最初のシーンの、映画の幕開けとなるショットをより詳細に思い出してください。そうすることによって、映画の最後の画面を考えることができます。つまり、『ゲームの規則』という映画作品を考えることができるのです。 幕開けとなる映像は、トラックの外へと出る動きです。そのトラックの中から、人々がケーブルを取り出し、そのケーブルと共に外へと向かいます。そのケーブルとは、音を記録するための管に他なりません。つまり、音響用のトラックから『ゲームの規則』は始まるのです。私たちは確かに映画の中にいますが、トーキー映画の中にあるということを念頭に置かなければいけません。そこから『ゲームの規則』は始まります。 最後の画面において、登場人物たちはあっという間に姿を消してしまいます。邸宅の中へと姿を消していくのは、彼らの影です。別の言い方をするならば、110分という映画の上映時間の間、存在していた登場人物は影へと変貌するだけです。スクリーンの中へと戻っていく影。彼らは、映画でしかなくなるのです。つまり、最初に音を映画の原動力として理解すると、最終的には映画を牽引していくのは映像となります。映画の真実となるのは映像です。ルノワールが『ゲームの規則』でやってのけた並外れた芸(わざ)とは、このような観点からすると、次のことに要約されます。映画のモーターとしての音を――物語を進めていくのは、舞台演劇のようにして音つまりは言葉です――、終着点を目指しながら、徐々に映像へと変化させていった。映像となるのは、音であり言葉である。そして、映像が音の締めていた位置を奪取する。最終的に、音は必要なくなる。これが、ルノワールが並外れている理由なのです。 物語最後の箇所において、人を欺くことになるのは、言葉です。言葉は真実を語らなくなります。そこには二重の意味があるのではなく、不幸な誤解が生まれるだけです。それが、死を引き起こします。言葉が死を生み出すのです。映像は生へと向かって行きます。音は死へと向かって行きます。 このようにしてルノワールが映画を生み出す方法を、映画作品のシステムとして、熟考するならば、一言「やられた」というしかありません。私たちは、正真正銘本当の偉大な映画作家に立ち会うことになります。ルノワールは各々の作品を通じて、「これが私の芸術です。映画という芸術から、映画と供に何かを創り出しました」ということを伝えていきます。彼が、偉大な映画作家であることに、議論の余地はありません。
HK 
 毎度ドゥーシェさんからルノワールや溝口の話を聞くと感心させられるのですが、一点疑問があります。シネクラブで取り上げたり会話に上がってくる作家の名前が、おおよそクラシックな名前に止まってしまっていると思います。今日の映画作家でも、ルノワールを通じてのように、映画を深く考えることのできる映画作家はいるのでしょうか。
JD 
 当然、今でも存在しています。しかしながら、ルノワールと同じ水準で映画を作れている作家はいません。ただほんの一握り、ゴダールのような限られた映画作家がいるだけです。それだけ深く水準で映画を考察しているからこそ、ゴダールは世間一般には好まれず理解されていないのです。造形が深すぎると言ってもいいでしょう。     
〈次号につづく〉(聞き手・写真=久保宏樹)
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