トリニダード・トバゴ カリブの多文化社会 書評|鈴木 美香(論創社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月17日 / 新聞掲載日:2018年11月16日(第3265号)

多様性のハーモニー
色鮮やかに咲き乱れる人びとたち

トリニダード・トバゴ カリブの多文化社会
著 者:鈴木 美香
出版社:論創社
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 残念ながらトリニダード・トバゴはにっぽん人にあまり知られていないくに、といわれて頷きながら、だから興味があるのだとさっそく地図を検索。

すると南米大陸北端のベネズエラにそって泳ぐ、鱏のような格好の、探すのも困難なほど小さな島がそれかと思えば、そこはトリニダード島で、そばにその十分の一ほどの小さなトバゴ島があった。なるほど、だから中黒点か。

小さな島の中に、人種や宗教の異なる五つあまりの、一種グループがあって、かれらが国民というわけ。興味は入り組んだグループがいったいどのようにハーモニーを奏でているか、あるいはいないかだ。島国にっぽんのごとく、他を知らないで済み住むところの人には、おそらく想像をこえたできごとが多々あるにちがいない。面白そうな小っこい島国だと読み進める中に、著者はにっぽんとフィリピンのハーフだと気がつく。

おそらく島国根性というヤツに苦しんだ経験もあるだろう、とおもんばかりつつ、そういう人が多様性の島では大変な開放感に浸れるだろうと軽はずみすれば、これが大間違い。

目次をざっと見通せば、人見知りで保守的な国民性、単独行動よりも集団行動、外国人に対する差別意識、根強い男性主義、性的マイノリティに対する偏見、外への関心の薄さ、広がる地域・所得格差といったマイナーな見出しがならぶ。

なんだいにっぽんじゃん、とがっかりするのだった。が、これは早とちり。

多様な人種や宗教がそれぞれグループを作っている、いかにも息苦しい、が、にっぽんに日々感じる陰湿な引きこもりとちがって、グループは明るい、ただただ明るい。

この明るさはラテンアメリカ特有の開放性が、といった常套句ではとうてい説明は半分もしきれていない。六年も生活したのだった。小っこい島だ、というのに、そんなに長く暮らせたのだった。酸いも甘いも愛も憎も知り尽くしているはずだし、なによりこんな小さな島にそれほど長年、居座りつづけて観測して、なんと新しい発見がつぎつぎとつきない、だから飽きるわけがない! 六年の居座りは、この島が、それほど魅力をいっぱいに湛えている、ということのなによりの証明なのだ。

悪口ばかりを並べたてたような目次、と紹介したけれど、この悪口って、あんたを愛するがゆえにゆうんだからね、とそういう愛の情の裏返しなのだ。この島自体がハーフ以上、トリプル、クアトロ以上、著者は楽しかったに相違ない。

トリニダード・トバゴ。

ここは多様性のハーモニーが、音楽に、人の付き合いに、社会に、色鮮やかに咲き乱れていて、なんとこんな楽しいところに、クソッ、給料までもらって六年も暮らしてきたか、と著者がうらやましいほど。

にっぽん人にあまり知られていないという、南米大陸北端のベネズエラにそって泳ぐ、鱏のような格好の、探すのも困難なほど小さな島は、こんなことを思わせる島だった。
この記事の中でご紹介した本
トリニダード・トバゴ カリブの多文化社会/論創社
トリニダード・トバゴ カリブの多文化社会
著 者:鈴木 美香
出版社:論創社
以下のオンライン書店でご購入できます
「トリニダード・トバゴ カリブの多文化社会」出版社のホームページはこちら
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