ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家 書評|エイミー ノヴェスキー(西村書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年11月17日 / 新聞掲載日:2018年11月16日(第3265号)

ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家 書評
◇人の持つ両義性◇
ブルジョワ作品を生み出す背景を解き明かす

ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家
著 者:エイミー ノヴェスキー
翻訳者:河野 万里子
イラストレーター:イザベル・アルスノー
出版社:西村書店
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本書は、2017年に、著者であるエイミー・ノヴェスキー、イラスト担当のイザベル・アルスノーが、イタリアのボローニャで毎年春に開催される児童文学のフェア、ボローニャ・ラガッツィ賞の「アートの本」賞部門の最優秀賞を受賞している。ちなみに、原題は、「Cloth Lullaby」(布の子守唄といったところか。)

さて、大きな蜘蛛の彫刻が、東京の観光名所の一つになりつつある六本木ヒルズに設置され、格好の待ち合わせの場所として知られている。本書は、その「大きな蜘蛛」の作者、ルイーズ・ブルジョワについて書かれたものである。

蜘蛛が万人に愛される対象かどうかは―因みに筆者は大の苦手であるが―にしても、ありえないサイズの巨大な蜘蛛ともなれば、それは威容さとともに異様さも存分に発揮することになるだろう。どうしてこんなものを作り上げたのか、その理由は、美術好きでなくても知りたくもなるのではないか。

本書は、ブルジョワの生い立ちを追いながら、その理由、つまり美術家となり、こうした作品を作り出すことになった背景を解き明かしている。とは言え、大半は幼少期の描写に紙面が割かれているし、児童向けの本であるので、ブルジョワの父親が愛人を子供家庭教師として雇い入れた話は、割愛されている。とは言え、実際のところ、割愛された箇所も含め、幼少期の体験がまさにブルジョワ作品を生み出す核となっている。それは、人間、この場合、父親や母親といった身近な家族に対する少女ブルジョワの戸惑い、割り切れない思い、怒り、悲しみである。若きブルジョワの言わば理不尽な環境に対するもがきは、自死を試み、あるいは合理的世界が約束されている「筈」の数理の世界に身を投じることで表されている。

さて、本書では、布が一つのキーワードになっている。それは、父親の仕事がタペストリーの修復を業とし裕福な暮らしを営んでいたことや、子供の頃のルイーズは仕立ての良い洋服(後年、作品として出品している)を着せてもらい、タペストリーの修復と織り直しを手伝っていたことに拠っている。父親の不在と不実、それに対する母親の戦略的とでも言うべき黙認を通じてブルジョワが学んだのは、人の持つ両義性に他ならない。

蜘蛛が糸を紡ぎ出して巣を作る姿はまさにブルジョワの母親の表象であるのだが、その巣で虫や場合によっては鳥さえも捕獲してエサにする姿は、ブルジョワに見せなかった母親のもう一つの顔でもあった。そして、蜘蛛は同時に、娘であり、妻であり、3人の息子の母親であるルイーズ自身の自画像でもあるのだ。

ところで、この書評の依頼があったのは、筆者が横浜美術館に勤めていた1997年にルイーズ・ブルジョワの大規模な個展を企画したからだろうと思われる。今でこそ、世界中の美術館がその個展を組織し、作品をコレクションしてきたが、少なくとも当時の日本ではまだそれほど知られてはいなかった。ただ、その展覧会が学芸員として忘れがたい仕事の一つであった理由は、中学生や高校生といった若き女性の鑑賞者たちが一つの作品の前で長時間向き合っていた姿が目に焼き付いていることだ。個々の作品のどこかに自らも共鳴出来る同時代的なリアリティを共有していたのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家/西村書店
ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家
著 者:エイミー ノヴェスキー
翻訳者:河野 万里子
イラストレーター:イザベル・アルスノー
出版社:西村書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家」出版社のホームページはこちら
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