世界史のなかの文化大革命 書評|馬場 公彦(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月17日 / 新聞掲載日:2018年11月16日(第3265号)

世界史のなかの文化大革命 書評
文革のもう一つの真実に迫る
多くの論点を提示する刺激的な書

世界史のなかの文化大革命
著 者:馬場 公彦
出版社:平凡社
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総合雑誌に掲載された敗戦から天皇訪中までの中国関連記事の集積に基づく大著、『戦後日本人の中国像』『現代日本人の中国像』を編んだ著者が、どのような問題意識をもって中国現代史最大の「事件」といえる文化大革命を語るのか。実は筆者は大学時代に中国現代史と9・30事件を民族解放運動という観点から関連性を解き明かそうとしたことがある。史料が皆無に近く、その試みは頓挫したが、時を経て著者の問題設定に惹きつけられたのである。挑戦的と思えるのは、なんと本文全八三節のうち四二節を、一九六五年にインドネシアで起きた9・30事件(陸軍左派によるクーデター未遂事件。その後、共産党解体、華僑迫害に至る)に割いていることだ。「一〇年の災厄」といったような「一国史型文革観に対して﹇中略﹈国際的要因と越境性を重視したもう一つの見方を提示し、文革のもう一つの真実に迫りたい」からだと言う。

当時の中国とインドネシアの「西側の資本主義勢力や植民地化勢力と闘って民族解放を目指すという同志的結合関係」に、「平和五原則」から「造反外交」へという中国の外交政策の変化と文革との関連を重ね合わせることには興味深いものがある。しかしながら、「文革がどのように推移したのかを、中国とインドネシア、そして日本及び西側世界という三元実況中継さながらに描こうとする、これまでに他に例を見ない、同時代史の試み」において、インドネシアをここまで突出させるのは何故か。

「毛沢東は﹇中略﹈9・30運動失敗の教訓を活かして、一年後に発動した文化大革命では、権力内部の闘争ではなく、下からの大衆動員方式という新たな方式を採り入れた」「風上のかなたにインドネシアという、﹇文革の﹈ひとつの発生源を見出した」と断定することに評者は躊躇する。「二つの革命に共通することは、権力を掌握するためには、平和的移行あるいは平和共存という方法を拒んで、武力によって敵を威圧し打倒し異論を封殺するという方法であり、そこには﹇中略﹈全体主義的思考がある。その思考のもとに大量死という事態が発生した」ということに注目するなら、革命における暴力の問題を正面に据え、9・30だけでなく、ベトナム戦争、ポルポト政権における大量死にも目を配るという論じ方もあるだろう。要するに、文革への9・30の影響を探るのではなく、両者に共通する問題点を探ることに、より力を注いで欲しかったということである。

9・30、文革、日本および西側諸国への影響それぞれの語りは、評者と見解を異にする論点もあるが、読みごたえのあるものになっている。一方、三元中継は必ずしも成功していないように見える。文革を軸にして影響を与えたとする9・30、与えられたとする日本と西側諸国、この位相の異なる事象を単純に「世界史のなかの」に括ったことによって「世界のなかの」と「文革」が引き裂かれてしまったこと。さらにウォーラステインの「世界システム論」を援用して文革を論じた一節を設けたこと。こうして、9・30のボリュームに増幅もされ、著者の問題意識が拡散されてしまったのが残念である。このあたりは各章扉のリードをたどっていくと、著者の想いとしては伝わってくるものがある。しかし新書判という制約はあったにしても、本文中でもう少し丁寧に展開する必要があったと思う。

「マオの革命は、単に劣勢な社会主義勢力が優勢な資本主義勢力に立ち向かうという図式にとどまらず﹇中略﹈虐げられてきたアジア・アフリカ第三世界の人民が、強勢に驕る帝国主義勢力を覆そうとする、世界大の階級闘争を演出したことにあった」という歴史から何を学ぶか。いろいろと注文を付けたが、そのことは多くの論点を提示する刺激的な書であることを証左するものだ。
この記事の中でご紹介した本
世界史のなかの文化大革命/平凡社
世界史のなかの文化大革命
著 者:馬場 公彦
出版社:平凡社
「世界史のなかの文化大革命」は以下からご購入できます
「世界史のなかの文化大革命」出版社のホームページはこちら
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