布施英利×港千尋 対談 ヒト(人間)はなぜ絵を描くのか 『洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年』( 論創社) 刊行記念 公開対談載録 (於・青山ブックセンター本店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月23日 / 新聞掲載日:2018年11月23日(第3266号)

布施英利×港千尋 対談
ヒト(人間)はなぜ絵を描くのか
『洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年』( 論創社) 刊行記念 公開対談載録 (於・青山ブックセンター本店)

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今年九月、布施英利著『洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年』(論創社)が刊行された。二〇一七年夏、解剖学者・美術批評家の布施英利氏は、美術を学ぶ息子と二人旅でフランスの洞窟壁画を訪ねる旅に出た。本書は先史時代の洞窟壁画から現代アートまで西欧の美術をめぐりながら、洞窟壁画を通して絵画の起源を思索した旅の記録である。十一月七日、青山ブックセンター本店で、『洞窟壁画を旅して』刊行記念のトークイベントが開催された。イベントでは、著者の布施氏と、『洞窟へ 心とイメージのアルケオロジー』(せりか書房、二〇〇一年)という著書もある写真家・著述家の港千尋氏が、洞窟壁画を通して、絵画の本質と「ヒトはなぜ絵を描くのか」というテーマに迫った。    (編集部)
第1回
□洞窟壁画とは何か

港 千尋氏
布施 
 本日は『洞窟壁画を旅して』という本の刊行記念のトークショーですが、港千尋さんは『洞窟へ 心とイメージのアルケオロジー』という洞窟論も出されていて、僕としては港さんは洞窟壁画の第一人者というような感じがしていましたので、この機会にお話を伺えればと思いました。また、港さんは『風景論 変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社)という最新作も出されていますので、お互いの本の話も交えてお話ししたいと思います。
港 
 布施さんとは実は二〇年ぶりくらいにこのような機会を持ちました。『洞窟へ』という本は二〇年程前の九〇年代、ちょうど布施さんとお会いした頃かその後くらいに書いた本なんです。ですので、こういうかたちで再会できて本当に嬉しいですし、十七年前に出した本を取り上げてくださって、こうして対談できることは本当に素晴らしいなとつくづく感動していました。今日はフランスの洞窟壁画の話が中心になると思いますが、洞窟壁画をご覧になったことのない方も多いと思うので、映像を見ながらお話ししていきたいと思います。
布施 
 実はこの会場に来る途中の地下鉄の中で偶然、アーティストの日比野克彦さんにお会いしたんです。僕は千代田線の根津から乗って日比野さんは湯島から乗っていらして、代官山 蔦屋書店で十九時からトークショーがあるということでした。僕のトークイベントと完全にカブっていましたので、今日こちらにお越しいただいた会場のみなさまには感謝しています(笑)。僕が今日は洞窟壁画の話をするのだと話したら、日比野さんも九〇年代にNHKの洞窟壁画の番組に出られたそうで、その話を地下鉄の中で熱く語ってくれたのですが、面白かったのは、日比野さんは撮影の合間一時間だけ一人にしてくれと頼んで、真っ暗な洞窟の中、一人で過ごしたそうなんです。そこで日比野さんが一番驚いたのは、洞窟の真っ暗闇がいつまでたっても真っ暗だったということだったそうです。つまり普通であれば、野外でも月明かりや星明かりがあって、だんだん瞳孔が開いてきてうっすら様子が見えてくる。でも、洞窟の中は完璧な闇で、三〇分いても闇だったと。そうするとまず触覚が意識されてきて、壁に触れたいという気持ちになったそうなんです。フランスのショーヴェ洞窟に、ネガティブハンドという手法の洞窟壁画があるのですが、日比野さんはそれとご自分の体験を重ねてそのことを話しておられました。ネガティブハンドがどういうものかというと、サイズからして本物の人間の手を使っているのですが、手を洞窟の壁につけて骨で作った筒で顔料を吹き付けて、手を外すと手形が残るというもので、僕は個人的にこれは写真の起源ではないかと思っています。つまり描いたのではなくて写し取ったものですね。洞窟壁画はもちろんこれだけでなく、泥のような壁に指で直接描いた線がそのまま固まったような動物の絵であるとか、炭で書いたものとか、いろいろな洞窟壁画があります。先史時代というとプリミティブ、 要するに素朴な絵と考えてしまいがちなのですが、実際に洞窟壁画を見て思うのは、素朴どころか相当の技術があって相当修練した線ではないかと感じます。
港 
 洞窟壁画には本や写真だとわからないことが一つあって、それは洞窟壁画は平面に描かれた絵ではないということです。実際に見ると壁面の凹凸を利用して描かれているのですが、動物の絵はだいたいにおいて無数の動物が重ね描きされていて、一匹だけで描かれている絵もありますが、そういうものには何か意味があって一匹だけ離れて描かれているのではないかと考えられています。その重ね描きも洞窟によっては二匹の動物が描かれた間が一〇〇〇年、二〇〇〇年の開きがある場合もあって、そういう意味で時間的にも重ね描きされている。

たとえば、この絵の場合は、壁の亀裂の左側に馬がいてライオンがいて、反対側に右向きのライオンが出てきて、この亀裂を中心に動物が湧き出てくるということは、おそらくこの壁の亀裂や窪みがすごく重要で、そういう意味で動きの表現にもなっています。
布施 
 キャンバスや紙に描く油画や日本画みたいなものと違って、自然の壁面に描いていますので凹凸があって、写真だとわかりにくいのですが、例えば熊の絵では熊の肩甲骨にあたる部分が膨らんでいて、自然が作り上げた造形と動物の体の膨らみとを重ねて描いている。よくできた形というものには、自然が長い時間をかけて作りあげてきた、ある形の必然があって、それと動物のイメージを重ねることによって、一から十まで画家あるいは彫刻家が作るのではなく、自然を利用しながら創作している。相当高度なテクニックというか、とてもリアルで、こんなリアルな造形があるのかというくらい、プリミティブとはまったく違う世界です。
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この記事の中でご紹介した本
洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年/論創社
洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年
著 者:布施 英利
出版社:論創社
以下のオンライン書店でご購入できます
「洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年」出版社のホームページはこちら
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